だが、それに類似する商品はそれ以前にも少なからず出ている。沖縄県・石垣島の唐辛子やコショウを使用して作った辺銀食堂(ぺんぎんしょくどう)の石垣島ラー油は、10年以上前から売り出されている。また、「具入りのラー油」というコンセプトで作られ、石垣島ラー油より大規模に売り出されたものに「具入り辣油」がある。この商品は、食べるラー油に関しては桃屋と拮抗しながらも、僅差でフォロワーの座に甘んじているエスビー食品が製造元である。

同社が、中国の李錦記社の輸入代理店として、「具入り辣油」を売り出したのは04年1月のことであった。同社では、すでにこの当時、具の入ったラー油を楽しんでもらおうという意向をもっていたのだ。ただし、この商品は、今日の食べるラー油に比べて辛味が強く、ご飯にタップリかけて食べられるというものではなかった。どちらかといえば調味料として使うものだったのだ。

先を越されたとき、正直、やられた! と思いました

この「具入り辣油」の後にも、同社はラー油の概念を打ち破る商品を続々開発している。07年8月発売の「ラー油ごまだれ」と「ラー油ぽん酢」という結合型の商品がそれだ。前者は、ゴマの具感を取り入れたもので、後者はポン酢と相性のよいダイコンおろしを具材にした商品である。つまりエスビー食品には、比較的以前から具入りラー油のアイデアがあり、それを実用化するという実績があったのである。

三島氏は、桃屋に先を越されたときのことを振り返っていう。「正直、やられた! と思いました。すぐに桃屋の商品への反応など、消費者調査を十分に行いました。市場ニーズがあることを確認したうえで、これまで温めてきたものを大至急商品化へと進めることにしたのです」。

同社は、10年3月に「ぶっかけ! おかずラー油」を出しているが、これは、桃屋の商品が発売されてからわずか半年後である。通常、この種の商品開発には1年くらいの時間が必要だが、それをわずか半分でこなしたのは、これまでの研究蓄積と販売実績があったからである。

とはいえ、「食べる」というコンセプトを明確に打ち出したのは桃屋が最初である。今まで調味料、あるいはその延長線としてしか考えられなかったラー油にフライドガーリックやフライドオニオンをふんだんにまぜ、新しい食感と香りを極端なまでに付け加えることによって「食べ物」あるいは「おかず」というものに仕立て上げ、それを普及させた功績は大きい。