その場で判断しその場で変えていく

僕が仕事する現場を見ていた人から、「佐藤さんはトップと話をしている現場で、即断即決するんですね」と言われたことがあります。千里リハビリテーション病院のサイン(案内標識)計画を建築家の方と一緒に担当したのですが、工事の最後に理事長と一緒に現場を見て回ったのです。そこで、理事長が「このサインの位置は?」と疑問に思っていたようなので、その場で表示板をすこし低い位置に直しました。そのほかにも現場でいくつか手直しをしたものもあります。

クリエーターにとっては、積み上げてきたものが最後の最後でひっくり返るのは恐怖でもある。しかし、僕は作家的な態度で仕事をしているアートディレクターではありません。発注した人に納得してもらったほうがそのブランドにとっていいと思っています。ただし、何でもかんでも発注者の意見を聞くわけではなく、いくら「変えてくれ」と言われても、よくないと思ったら、相手にその旨を伝えて、とことん議論します。

僕は剣道をやっていて、咄嗟に反応する体質になっているのかもしれませんが、結論を持ち帰ることなく、その場で決めることが多い。忙しい同士がせっかく顔を合わせているのだから、できるだけ案件は的確なタイミングで決断したいと思っています。決定権のある方と話をする場合の最大のメリットはその場で決断できるという点にあるのですから。

でも、「即断の人」といえばユニクロの柳井(正・会長兼社長)さんがそうでしょう。僕がNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組に出ていたのを見て、連絡をくださったのですが、会って1時間くらい話をしたら、突然、「もういいです」と言う。気分でも害されたのかなと思ったら、「佐藤さん、これからすぐに仕事を発注してもいいですか」と。その場でニューヨークに作るグローバル旗艦店のトータルディレクションを担当することが決まったのです。ちょうど3年前のことでしたけれど、あれはさすがに驚いた。