その成否が日本そのものの命運を握る地方創生。地域での取り組みにおいて持続的に成果を生み出すためには何が必要か。地域活性化のプロフェッショナルとして、全国の自治体等で現地アドバイスや講演を行う木村俊昭氏に聞いた。

地域の基幹産業は何か
まずはこれを把握する

──現在、地方創生は国の重要施策であり、さまざまな取り組みが行われています。そもそも、なぜ地方創生が重要なのでしょうか。

【木村】背景としてあるのは、やはり人口減少です。元総務大臣の増田寛也氏による著書『地方消滅』は、「将来、896の自治体が消滅しかねない」とレポートし、社会に衝撃を与えました。この人口減少で着目すべきは、単に総人口ではなく、生産年齢人口の急激な減少と、それに反比例する形で起きている65歳以上の高齢者の増加です。この本質を踏まえた戦略的な思考が必要です。

一口に高齢者といっても、70代前半くらいまでは元気な人も多く、まだまだ現役です。「うちの自治体は高齢化率が高い」と嘆くのではなく、シニアの方たちが活躍できる場をいかにつくっていくかという発想が求められます。

──木村さんは、かねてよりそれぞれの人が役割を持つことが大事だと主張されていますね。

【木村】そうです。私は“地方”ではなく、より広い視点での連携を重視する観点から“地域”という言葉を使いますが、地域創生の大きな流れは「情報共有」→「役割分担」→「出番創出」→「事業構想」だと考えています。

まずは、情報共有。行政、商工会議所や農業団体などが、これまで何をしてきて、今後どうしようとしているのかをすり合わせる必要があります。各々の組織が一生懸命頑張っているが、方向性がバラバラだったり、施策が重複していたりというのはよくあるパターン。こうした非効率を解消しなければなりません。そのうえで、それぞれの組織や世代に役割を担ってもらい、出番をつくっていく。そして、地域の活性化を“事業”の視点で構想し、実践していくわけです。

──事業構想にあたって、注意すべきポイントはありますか。

【木村】それは端的に、部分最適ではなく“全体最適”で考えることです。よく地域活性化というと、駅前を再開発しよう、商店街を元気にしよう、温泉街を盛り上げようといった話になりがちです。しかしそれが実現して、仮に商店街に人が集まるようになっても、地域全体へ波及しなければ一過性のもので終わってしまう。個別企業に置き換えて考えればよくわかる話で、地域の特定の企業だけが儲かっても、その恩恵にあずかる人は限られます。もちろん、駅前や商店街などに集中的に投資すること自体は悪いことではありません。大事なのは、それが全体的なストーリーの中に位置付けられているかどうかなのです。

事業の構想や実践において全体最適を実現するには、第一に地域の基幹産業をしっかり把握する必要があります。その産業が、どこから原料を仕入れて、どんな加工をして、どのようなルートで販売しているのか。こうしたことがわからなければ、本来地域の産業政策は立案できません。企業誘致にしても、助成にしても、地域全体への貢献度が基準になります。この辺りは主に行政の仕事で、私自身、小樽市役所時代は飲食店や企業を徹底的に回り、生の声を集めました。すると、地元の人でも知らないような話がたくさん出てくる。これが施策を考えるのに役立ちました。実学・現場重視の視点は、地域創生の鍵であり、私のポリシーでもあります。

「五感六育」によるまちづくりを提唱

“超プラス思考”で課題の本質を問い続けることによって、解決の糸口が見えてくる

木村俊昭(きむら・としあき)

1960年北海道生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程。1984 年小樽市入庁。産業振興課長、産業港湾部副参事等を務める。2006年から内閣官房・内閣府企画官として、地域再生策の策定、地域再生制度事前・事後評価、 地域と大学連携、政府広報活動等を担当。現在、東京農業大学教授・博士(経営学)、内閣官房シティマネージャー、(一社)日本事業構想研究所代表理事、日本地域創生学会長等として、人財塾の開塾、五感六育の推進、仕事環境の改善(時短等)を実践。NHKプロフェッショナル「仕事の流儀 木村俊昭の仕事」ほか出演。

──地域の活性化をリードする人材に求められる資質とは、どのようなものだと思いますか。

【木村】一つには、プロデューサーとしての役割が求められます。先ほどの例で言えば、駅前と温泉街をリンクして活性化を考える。そんな視点が大事になるでしょう。加えて、広聴・傾聴・対話がきちんとできること。これも大事です。当然のように思うかもしれませんが、実際はこれができないリーダーが多いのです。

リーダーは、増幅型リーダーと消耗型リーダーの二つのタイプに分けられるという研究があります。消耗型リーダーとは、一言でいえば周囲の人を道具のように扱うリーダーです。スタッフがミスをすればそれを責め、会議では自分ばかりがしゃべり、ほかの人の意見を求めない。優秀な人間がほしいときは、外部から雇えばいいと考えている。これでは持続的な地域の活性化は望めません。初めにお話ししたとおり、地域創生においては役割分担や出番創出もポイントになります。これを実現できるのは、組織や周囲の人の力を引き出すことを得意とする増幅型リーダーだといえます。

──一方で、一般の市民などにはどのような意識や考えが求められますか。

【木村】講演などで各地を訪れると、なかには、「自分たちのまちには、何もないから……」とおっしゃる方がいますが、そんなことはありません。市民の皆さんも、自分たちのまちの歴史や文化、産業に関心を持ってほしいと思います。

そこで私は、「五感六育」のまちづくりを提唱し、この実践を全国でサポートしています。五感はご存じの「見る・聞く・嗅ぐ・味わう・触る」。これを見つめ直して、地域のオリジナリティにつなげようというわけです。そして六育は「木育・食育・遊育・知育・健育・職育」を表す私の造語。自然、遊びや健康等を意識しつつ、地域一体で「ひと育て」「まち育て」を実現しましょうとの思いを込めています。

──最後に、これからの地域活性化で着目すべき点などについてお聞かせください。

【木村】目的・目標・使命を明確にして、具体的な指標に基づき、期限を設けて活動する。これはビジネスでも地域創生でも変わりません。地域活性化は日本全体の課題ですから、ビジネスパーソンの皆さんにも、ご自身が住む、働く地域がどのような問題を抱えているのか、どんな取り組みが行われているのか、関心を持ってほしいと思います。

そして地域創生に関わるにあたっては、“超プラス思考”を大事にしてほしいというのが私の経験からのアドバイスです。できない理由を探すのではなく、「Why so?(それはなぜ)」「So what?(だからなに)」と繰り返し問い続ける。そうすることで、課題解決の糸口が見えてきます。人任せ、行政任せにするのではなく、自分たちで、また民間でできることはやる。これも、地域を元気にする大切なポイントの一つです。