また、わが国の会社法は、取締役の義務の一つに善管注意義務を定めている。これは、細心の注意を払って業務に臨めということだ。その上で、何らかの過失が発生した場合、責任を問われることは少ないと考えられる。本来、株主価値が増えたか否かが経営を評価する最重要の基準だが、わが国はその考えになじんでこなかったといえる。

一方、欧米では、外部から専門家(スペシャリスト)を登用し、経営を任すことが当たり前だ。背景には、経営と業務の執行を分ける考えがある。経営とは、株主価値の増大のために戦略を策定し、必要な改革措置を実行することだ。それが経営者の責務だ。また、取締役は各事業部門などの業務執行を監督する。

役員報酬は欧米とそん色ない水準にすべき

法的な側面からも、株主価値の増大という結果が問われる。たとえば、米国の会社法では、経営者は受託者責任を果たすだけでなく、株主価値を積極的に増やしていくという意味での“グッドフェイス(誠実さ)”を持つべきだと考えられている。契約に関しても、無過失責任が原則だ。つまり、損害が発生した場合、加害者は過失の有無にかかわらず責任を負う。契約に関する日米社会の考え方の違いは、東芝の巨額損失でも注目された。

理論的に考えると、株主価値の増大が求められているという点で、わが国の経営者は欧米の経営者と同じ責任を負っている。経営者が株主に対する受託者責任を負い、株主価値の増大を求められている以上、わが国の役員報酬も欧米と比べてそん色ない水準に達することが望ましい。

ガバナンス制度の拡充と役員の責任

今後、わが国企業は経営者の責任を明確化すべきだ。経営は、必ずしも業務を執行するだけではない。経営は、株主の負託にこたえるために戦略を策定し、長期の成長を目指す取り組みだ。そうした理解を持つ企業が増えることが大切だ。