「中朝蜜月」は単純すぎる見方

秀吉軍の侵攻の際、明の援軍はろくに日本軍と戦わず、彼らが朝鮮で行ったことといえば、略奪と民衆の虐待に過ぎませんでした。しかし、当時の朝鮮王朝は、滅亡の危機を明に救ってもらったとして、明の恩を「再造の恩」(再び造られた恩の意)と呼び、変わらぬ忠誠を誓い(あるいは誓わされ)ました。ここまで来れば、属国というよりは「隷属国」というべきです。

今日、北朝鮮にはかつてのトラウマがよみがえっています。北朝鮮にとって、中国の支援は下心丸だしの見え透いたもので、支援してもらうにしてもそれが隷属につながるようなものであってはならないという、強い拒絶反応があるのです。

「北朝鮮と中国が蜜月関係にある」とする一般的な捉え方がありますが、北朝鮮は「千年の宿敵」の仇を忘れてはいません。かつての国難において、彼らの父祖たちが中国から受けた屈辱は、体の奥に染み付いた記憶として受け継がれています。

金委員長と習主席が表面上、どれほど蜜月を演じようとも、歴史の桎梏(しっこく)を簡単に乗り越えることなどできません。アメリカや日本は外交上、中朝のすきま風をよく見極めて、次の一手を繰り出していくことが必要です。

参考文献:柳成竜(著)、朴鐘鳴(翻訳)『懲ヒ録(ちょうひろく、ヒは上に比、下に必)』(平凡社東洋文庫、1979年)

宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家。1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『「民族」で読み解く世界史』(日本実業出版社)などがある。
(写真=GRANGER.COM/アフロ)
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