決めない勇気が運を呼び込む

そういう蓄積があったある日、僕は彼女にこう言いました。

「要は明日のロケをうまく回せばいいんですよね? だったら今から寝たほうがうまく行くんですけど。寝不足だと絶対失敗しますから」

上下関係の厳しいテレビ業界では、ありえない反論ですが、僕は今でも、このスタイルです。物事を早々に固めてしまうと(これを業界用語で「フィックスする」と言います)バッファや余裕がなくなり、運を呼び込めない。「想定の範囲」を自ら狭く限定してしまうからです。

だから僕は、ロケの段取りをギリギリまで決めません。世の中、決断することが勇気だと言われがちですが、実は決めないことのほうがすごく勇気がいる。でも、それが運を呼び込むと僕は思っています。

バッファ、余裕、遊び。その「空き」部分に、企画やキャスティングや編集といった、おもしろくなる要素が後から入り込んできます。

だからいつも空けておかなければなりません。

本棚がいい例です。今持っている本がちょうど全部入るサイズの本棚を買ってしまったら、これから買う新しい本が1冊も入りません。

すると新しい本を買うのを躊躇してしまいます。ですので、あらかじめたっぷり余裕のある大きな本棚を買うべき。言わば「運」を入れられる場所を残しておくべきなのです。

連絡は早めに、決定は遅めに

ただし現実問題として、仕事で物事をギリギリまで決めないと、周囲も先方もやきもき、イライラしてしまいます。では、どうするか。答えは「連絡は早めに、決定は遅めに」です。

角田陽一郎『運の技術 AI時代を生きる僕たちに必要なたった1つの武器』(あさ出版)

決まってから内容を連絡するのではなく、「まだ決まっていません」と早めに連絡すればいいのです。

皆、仕事で何に怒っているのかといったら、「決定していない」からではなく、「連絡がない」からですよね。

たとえば、たくさんの人が集まる会議。何人もの人に予定を聞いて回っても、必ず誰かからの返事が遅くて、いつまでも決まらない。全員の予定が判明してから全員に連絡すると「連絡遅いよ!」と怒られる。

ですから、かなり早い段階で「すみません、まだ決まってないんです」と連絡を入れるだけで、大部分の怒りは防げますし、決定するまでの余裕を稼ぐこともできます。

整えすぎず、決め込みすぎない。運を呼び込むバッファは常に持っておきたいものです。

角田陽一郎(かくた・よういちろう)
バラエティプロデューサー
1970年、千葉県生まれ。東京大学文学部西洋史学科卒業。1994年、TBSテレビ入社。『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』『オトナの!』などの番組を担当。2016年にTBSテレビを退社し、独立。著書に『13の未来地図 フレームなき時代の羅針盤』(ぴあ)、『「好きなことだけやって生きていく」という提案』(アスコム)などがある。
(写真=iStock.com)
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