失うものがない日本、重圧にさらされるベルギー

もっとも、すでに触れたように、ベルギーは日本以上に主力を温存できている。そしてマルティネス監督は「いま考えているのは日本戦のことだけだ」と、やたらと強調している。それは「ブラジル戦のことばかり頭にちらつく」と言われているような気がする。

舐めてもらうのは大歓迎だし、過大評価していただくのも悪くない。日本にベスト8への野心はあっても、もはや失うものなどないからだ。この勝負、プレッシャーにさらされるのはベルギーの方だ。

そこで思い出すのは、東日本大震災のあった2011年の女子ワールドカップ。決勝トーナメント1回戦で、優勝候補の筆頭にしてホスト国でもあったドイツを破ったあとに、なでしこジャパンの澤穂希選手が語った言葉だ。

「ここが(ドイツを倒す)チャンスだと思っていました。勝たねばならない、という重圧がかかるのはドイツのほう。私たちには、失うものがない。自分たちのサッカーをやれば、勝てる、と」

「勝って当然」という相手にはメンタル面で有利

澤選手は、格下という「弱者」の立場を逆手に取って、実力差をひっくり返すアドバンテージを見いだしていた。それはメンタル面での優位だ。負けたら終わりの一発勝負。「強者」にかかる「勝って当然」という重圧は、グループステージとはまったく異なる。

ベルギーが「負けるはずがない」と思っているなら、さまざまな邪念がよぎるだろう。日本に勝ち、準々決勝で想定されるブラジル戦を見据えれば、延長戦は避けたい。ムダに体力を消耗したくないし、ケガも避けたい。イエローカード(警告)も少なくしたい……。欲は尽きないはずだ。

日本の初戦の相手コロンビアが、いきなり10人で戦うハメになったのも、心の隙があったからではないか。どうせ日本は立ち上がりから、がっちり守りを固めてくるだろう——といった具合に。

そう考えれば、日本は相手の裏をかき、あちらが「できれば避けたい」と考えている展開に持っていく戦い方をすればいいのだ。