「これを作っている人たちは、嫌われることを承知でやっているのだから余計に始末に悪い。どうしてそう言えるのかって? 30秒編、20秒編、15秒編とあるが、どのくらいなら我慢できるかと聞いてくるのだから。このゴミをあと10秒我慢すれば本当に見たい本編にありつけるというわけだ。こんな汚染コンテンツモデルが長続きするわけがない」。

商品購入に至るまでの「迷路」のような道筋

もっといえば広告という概念そのものがもう長続きしないのではないだろうか。

ダグ・スティーブンス・著、斎藤栄一郎・訳『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)

販売店やブランドにアドバイスできることがあるとすれば、カネの力で注目を集めて成功をつかむ方法はもう時代遅れと頭を切り替えることだ。ブログやソーシャルメディアなど信用・評判を獲得するメディアを「アーンドメディア」(獲得メディア)と呼ぶが、こうした活動が不得手なら、どれほど有料の広告を打ったとしてもキリがない。

ターゲットの顧客を狙って、混沌とした市場のなかで十分にメッセージを届けられたとしても、今度はまったく別の課題を抱え込むことになる。かつてはそれだけですんなりと商品購入につながっていたが、今はさまざまなチャネルやタッチポイント(顧客との接点)、プラットフォーム、機器が迷路のように複雑に入り組んでいる。その多くはブランド側にコントロール不可能なものだ。顧客を絞り込めるどころか、先に進めば進むほどにブランドや商品の選択肢は飛躍的に増えていくのである。

たとえば、フェイスブックやツイッターで、ある商品について初めて耳にすることがある。たまたま友達がそのことに触れていたかことがきっかけで、そのブランドのサイトを訪れることはある。そこに掲載されている販売店一覧を眺めて最寄りの店に足を運ぶ。そうなったとしても、そこで買わずにウェブを検索して競合商品を調べたり、他のユーザーのレビューを読んだりするだろう。何週間か、ひょっとしたら何カ月も購入を見送ることもある。以前に出向いた店のサイトにアクセスする。だが、すぐには買わず、その販売店のアプリをダウンロードしておき、やがてカフェにでもいるときに、思い出したようにその店のネット通販でようやく購入にたどり着く。

こんな複雑怪奇な道のりをマーケティング担当者は説明できるだろうか。ましてや購入に至るまでの消費者の体験をコントロールできるわけがない。しかも、その道のりには、消費者のまったく新しいニーズや嗜好が渦巻いているのだ。

ダグ・スティーブンス(Doug Stephens)
小売コンサルタント
世界的に知られる小売コンサルタント。リテール・プロフェット社の創業社長。人口動態、テクノロジー、経済、消費者動向、メディアなどにおけるメガトレンドを踏まえた未来予測は、ウォルマート、グーグル、セールスフォース、ジョンソン&ジョンソン、ホームデポ、ディズニー、BMW、インテルなどのグローバルブランドに影響を与えている。著書に『小売再生』(プレジデント社)、The Retail Revival:Re-Imagining Business for the New Age of Consumerism(未訳)がある。
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