テーマパークとしてはディズニーリゾートやユニバーサルスタジオに太刀打ち困難ですが、「都市」と位置づければ、それらと差別化でき、企業などの会議(Meeting)、研修旅行(Incentive Travel)、国際会議や学会(Convention)、展示会・見本市・イベント(Exhibition)などの需要(MICEという)を取り込むこともできます。

『【新版】ランチェスター戦略 「弱者逆転」の法則』(福永 雅文著・日本実業出版社刊)

「ハウステンボスは東京からは遠い。でも、佐世保を中心に据えると、上海は東京よりも近い。ソウルは関西と等距離です。成長著しいアジアを商圏としてとらえられるのです」

この考えは、H.I.S.がハウステンボス再建に取り組む意味をもたらしました。海外旅行の取扱い人数で1位になったH.I.S.がいま、力を入れているのが成長著しいインバウンド(海外から日本へ来る旅行)市場と、国内旅行です。ハウステンボスが観光ビジネス都市として再生すれば、H.I.S.のキラーコンテンツとなるのです。

「ランチェスター 弱者の基本戦略」の一つが「差別化」です。ディズニーやユニバーサルなどとの全面対決を避け、過去の自社の路線を差別化し、立地の悪さを逆手にとって市場そのものを差別化し、新たな需要を創出します。

次なる弱者の戦略課題は「集中」です。

強者に比べると経営資源に劣る弱者は、経営資源を集中しなければ勝ちようがありません。ハウステンボスの敷地面積は東京ディズニーランドとシーを併せたものに匹敵します。広い敷地で長らく低迷していたため、テナントが歯抜け状態になっていました。これでは都市としてもパークとしても魅力半減です。

澤田さんは敷地面積の3分の1を無料の公園として一般公開します。有料ゾーンを3分の2とし、テナントを集約することで空き店舗をなくします。無料ゾーンは運営コストを下げながら集客装置となり、有料ゾーンは賑わい感が復活しました。

戦略の神髄は「差別化」×「集中」×「接近戦」

もう一つ、弱者には重要な戦略課題があります。「顧客に接近すること(接近戦という)」です。

澤田さんは社長就任時に社員を集めて、観光ビジネス都市でインバウンド需要を取り込むとの志と夢を語った後で、三つの基本方針を示します。第一に「掃除をしよう」、第二に「明るく元気に仕事をしよう」、第三に「経費を2割下げて売上を2割増やそう」、です。

第一の「掃除をしよう」は、凡事も徹底して継続してやり抜くと圧倒的な絶対的な差となるという趣旨で、これも「差別化」です。変わったことをやることだけが差別化ではありません。凡事徹底は、事業の基本価値を少しずつではありますが、着実に大きくする思想です。第三の経費と売上については、有料ゾーンと無料ゾーンの集約が代表的な施策です。

第二の「明るく元気に」とは、客商売としては当然の凡事徹底でもありますが、スタッフ一人ひとりが、どうすればもっと顧客に喜びや驚きや感動を与えることができるのかを考え、実行するという意味において、ランチェスター戦略的には「接近戦」ともいえます。

ハウステンボスにはメリーゴーランド(回転木馬)があります。施設自体はどこの遊園地にもあるものと変わりません。ただ、筆者が訪れたとき、ハウステンボスの回転木馬の運行管理をするスタッフは、かぶりものをして、木馬が回っている間、ずっと木馬に乗った子供たちに手を振ったり、ひょうきんなダンスをしていました。一日中です。子供たちの笑顔のために一日中、踊っていたのです。