「この人は自分に大切な話をしてくれている」と理解できる子

中嶋は、13歳の畑岡奈紗と初めて会ったときの印象を、今も鮮明に憶えている。

中嶋常幸●ヒルズゴルフ トミーアカデミー主宰。畑岡選手13歳の頃より育成に携わる。ライバルの青木功、尾崎将司とともに「AON時代」を築いた。

「目がキラキラしている子だな。それが第一印象でした。僕がレッスンしているときや経験談を話すとき、彼女は一言も聞き逃すまいと、目で聴いているんです。人の話を、相手の目を見て聴くことができて『今、この人は自分に大切な話をしてくれている』と理解できる子は、成長のスピードが違う。ぜひ自分の手で育ててみたいと感じました」

畑岡の強さの秘訣を詳しく聞こうとすると、中嶋からは予期せぬ言葉が返ってきた。

「僕は“メンタルが強い人”なんていないと思っているんです」

中嶋はこう続ける。

「タイガー・ウッズを見てください。『タイガーほど精神力が強い選手はいない』と言われた彼でさえ、ひとつのきっかけでどん底まで転落してしまうんですよ。だから、よく『精神力』と言い換えられるような意味でのメンタルは、誰でも同じだと思います。僕自身は、『メンタルの強さ』を『目標意識の明確さ』ととらえています。目標を明確に見定め、その目標に向かって努力する人が『あの人はメンタルが強い』と評価されているんじゃないでしょうか。自分の意志で、心の底から達成したいと思う目標を持っている人は、『どうやったら強くなるか』『どうやったら結果が出るか』について常に考え続けています。これに対し、目標が明確でない人は往々にして“できない理由”を羅列するんです。両者の差は明らかでしょう」

最強のメンタルは、「目標を見定め、目標への道筋をイメージする力」を養うことでつくられると中嶋は言う。そして畑岡は、この点において類いまれな能力を備えていると評価する。

「たとえば、この弱点を克服するには、こんな練習が必要だな。練習量は今日は300球にしておこう、明日は1000球打とうと。自分のコンディションと相談しながらプランニングしていく……畑岡はその能力がきわめて高いということですね」

ジュニア時代から畑岡のクラブセッティングを担当する「ダンロップ」(住友ゴム)の引地顕之は、中嶋の評価を裏付けるようなエピソードを語ってくれた。

「畑岡選手のアマチュア時代、使うクラブの選定をしているときのことです。畑岡選手は何度かスイングしてみて『今はこのクラブ、ちょっと重いと感じるんですけど、半年後にはもっと筋力アップして体幹がしっかりすると思うから、このセッティングでOKです』と言うんです。まだ高校生なのに、半年後の自分の姿をはっきりとイメージできていることに驚きました」