成功体験を捨てることの大切さ

成功体験を捨て、新しい発想で、新しいモバイル・デバイスなどの機器を生み出していけるか否か、アップルは重要な局面を迎えつつあるといえる。アップルはiPhoneの創造によって成長を遂げてきた。では、今後もiPhoneは、同社が成長を追求するために不可欠な要素かといえば、それは違うだろう。

重要なことは、先端のテクノロジーを実用化して、人々が「あったらいい」、「できたらいい」と思う機能を実現していくことだ。

アップルが自社の規格にこだわらず、社外のより良いテクノロジーの利用を重視すれば、アクセサリー製品などを手掛ける企業は、在庫の処分などを迫られる可能性がある。それは「良い」「悪い」の問題ではない。変化とはそういうものだからだ。

発売前夜を盛り上げてきた「後悔回避」という心の働き

アップルが顧客のロイヤルティーを活かし、新しいテクノロジーの活用を目指すのであれば、USBケーブルなどの需要が高まるなど、波及効果も期待できる。変化に適応し、それを活かそうとする発想が重要だ。

これまで、アップルの新製品が発売される当日前夜になると、銀座や渋谷などの直営店には、長蛇の列ができた。それは、“後悔回避”という心の働きが影響している。新製品を使ってより快適にデジタルライフを送る状況と、それがない状況を比べると、前者の方が魅力的だ。それを実現できないと、後々、がっかりする姿がまぶたに浮かぶ。それを避けるために、われ先に、アップルの新製品を手に入れようとするのだ。

今なお、多くの人がアップルの製品を使うことに満足を感じている。その間に、アップルが“あっと驚く新製品”を発表できるかどうか。それは、IT業界を中心に、各国の企業経営を左右するほどのマグニチュードを持つだろう。反対にそうした変化を起こせなければ、アップルは価格競争に巻き込まれ、競争力は低下するだろう。

アップルはUSB‐Cなどの要素と、自社内のコンセプトやデバイスの規格を結合し、新しい商品を生み出すことができるだろうか。それは同社の創造力を評価する重要なポイントとなるだろう。

真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
日本でアップルやダイソン生まれない理由
国産ジェット"ホンダと重工"決定的な違い
ボロ企業を買い続けるライザップの危うさ
仮想通貨の「億り人」は社会のゴミなのか
日本の家電がデジタル時代に失速した理由