大量の「テナント難民」が空室率を大幅改善

しかし、今の市場の状況を注意深く見ると、どうもあまり楽観はできないようだ。ポイントは以下の3つだ。

ポイント(1)
今後供給される予定のビルの多くが既存ビルの建て替えである

都内のビルの多くが現在、建物の老朽化問題を抱えている。耐震性の確保はもとより、企業のBCPの確保や最新鋭設備の装備などビル業界もさまざまな課題を抱えている。そこで大規模修繕を行うより、都心部の容積率アップを利用して建て替えようというのが業界の流れとなっている。

より最新鋭の巨大ビルにすることで、競合に勝ち、生き残っていこうというのが多くのビル会社の戦略だ。ここで注目したいのが建て替えるにあたっては当然、今入居しているテナントに対して立ち退き料等を支払って退去してもらうことになる。さて、退去を余儀なくされたテナントはどこに行くのだろうか。当然、仕方がないので、別のビルの空室を探し出してそこに引っ越すことになる。するとそれまで空室を抱えていたビルの稼働率は改善することになる。

ここ数年で、都内の既存オフィスビルが建て替えに伴って、大量の「テナント難民」を生じさせている。難民の多くが既存ビルの空室に収まったために、既存ビルの空室率が大幅に改善する。このシナリオで今の市場の空室率を計算すると、実は、ここ数年における空室率の改善については、ほぼ説明ができてしまうのだ。

こうした「押すと餡出る」効果が、実は都心部のオフィスビルの空室率の改善の「本当の理由」であることは、あまり知られていない。

壊されたビルの多くは、都心部の容積率(土地面積に対して建設できる建物床面積の割合)割り増しの恩恵を受けて、巨大なオフィスビルに生まれ変わることになる。

さてこれらのビルのほとんどすべてが竣工を迎える2020年以降も、オフィスビル市場は本当に安泰でいられるのだろうか。日比谷ミッドタウンに収まる旭化成グループは、もともとこの地にあった日比谷三井ビルのアンカーテナントだった。ビルを建て替えるためにいったん神保町三井ビルに移っていたものが今回戻ってくる。つまり神保町のビルには大量の空室が発生することになるのだ。

ポイント(2)
竣工を予定するビルが想定する高賃料を負担するテナント属性

さらに問題はややこしくなる。多くのビルは都心3区に建設されるので、賃料はおおむね月額坪当たり4万円を超える条件となってくるはずだ。これらのビルのすべてが顔を揃えた時に、そうした条件で入居するテナントがいったいどのくらいいるのだろうか。

月坪4万円以上の賃料を負担できるテナントは、景気が回復した今でも外資系金融機関、国際法律事務所、一部の新興企業や上場グローバル企業などほんの一握りにすぎない。市場にどんなに超高級物件を並べても、提示された条件を負担できるテナントはごく少数なのだ。