自分は何になら人生を捧げて頑張れるのか

【田原】仕事は充実していたのに辞めて独立する。どうしてですか。

【久保田】起業家の支援をする中で、若い起業家がもっと増えてほしいと考えていました。スタートアップの世界で30歳はベテラン。若い起業家の成功例をつくるなら、もっと若いうちに起業しなくてはいけないと思って、22歳で起業しました。

【田原】ちょっと待って。若い起業家を増やしたいなら、ベンチャーキャピタルで若い起業家を育てたほうがいいんじゃない?

【久保田】それも選択肢の1つでした。ただ、たくさんの起業家を支援して感じたのは、意欲のある若手に起業を促すことはできても、情熱を持って続けさせるのは難しいということ。それならまず自分がやろうと。

【田原】起業するにしても、分野はいろいろあります。

【久保田】自分は何になら人生を捧げて頑張れるのか。それを考えたときに浮かんできたのは、家族団欒の風景でした。僕は温かい家庭になじみがないせいか、将来家庭を持てるなら、自分の息子や孫と一緒に楽しい時間を過ごしたいという思いが人一倍強い。そこで、企業向けよりも、利用者であるお客さんにサービスを提供している会社のほうが子どもにも理解されやすいと思いました。それに家族みんなで楽しむなら、エンターテインメントの領域がいい。たとえば家でテレビを見て、「この作品、お父さんがつくったんだよ」って言いたいんです。

【田原】久保田さんは独身? 家族と一緒に楽しみたいなら、早く結婚すればいいのに。

【久保田】はい。でも、相手がいない(笑)。いたとしても、いまはまだ時間の余裕がなく、相手を大切にできないかもしれない。結婚願望は強いけど、しばらく先になりそうです。

【田原】そうですか。それはさておき、エンタメで起業は珍しいね。僕もいろんな起業家に会いますが、エンタメはほとんどいない。

【久保田】ベンチャーキャピタルで働いていても、エンタメの分野で起業する人は減っている実感がありました。エンタメのサービスを提供するにはコンテンツの制作に原価が発生します。しかもいまはさまざまなコンテンツが無料で楽しめる時代で、ユーザーが感動したときにしかお金になりません。ユーザーにコンテンツを提供しても、その時点ではまだマイナスで、ビジネスとして成立させ、拡大させる難易度がものすごく高いんです。だからこそ挑戦して盛り上げたい気持ちもありました。