【証言 某有名企業に勤める男性モリさん】

モリ「お恥ずかしい話ですけど、うちのチームは瀕死状態だったんです。もともとは花形の部署だったんだけどね。売り上げは年々下がっていたし、会社もIT系に事業展開を進めていたので、いずれ淘汰される予定でした。私が10年前に異動になったのも、部署を閉じるためだったんです。ただ、僕は絶対に再生させてやるって思った。子どもの頃から天邪鬼なんです。人がダメだということをダメじゃなくするのが楽しい。性格がネジ曲がってるんだね(笑)。自分で言うのもナンですけど、私は自分のチームの業績を必死で上げてきました。部下たちも、ものすごくがんばってくれてね。販路も広がったし、何よりも今まで誰もやってなかったコンセプトで商品展開できたことで、他社からも注目されるようになったんです」

河合「部下の方も『成功体験をさせてもらった。自信になった』って言ってましたよ」

モリ「そんなこと言ってたの? うれしいね。ただね、会社は部下を育てる上司も、チーム業績を上げた上司も評価しない。600万の黒字より、5億の赤字の方が評価されるんです」

河合「ええっ? わけがわかりません。5億も赤字出したら、普通は責任をとらされるでは?」

モリ「そうは必ずしもならないのが、組織なんです。つまり、上の方針や考えていることを上手く汲み取って動いた人が評価される。うちの会社は、IT系に事業展開したかった。5億はその赤字だったのでお咎めナシ。会社っていうのは、『どこそこの会社では○○が成功した』とか、『どこそこの○○は売れてるらしい』ってのに弱い。でも、猫も杓子もIT系に乗り出しているんだから、ウチには勝ち目はないことくらいわかるはずです」

5億の赤字が「ナイスチャレンジ!」

河合「それでもやらないと不安、ってことですよね?」

モリ「おっしゃるとおりです。上がやりたいと思ったことに踏み切った人は5億の赤字を出しても『ナイスチャレンジ!』って評価されるんです」

河合「でも、モリさんはちゃんと数字で結果を出したわけですよね? それは評価されないんですか?」

モリ「僕への評価はないですね。ただ『この事業は、まだ行けるな』という面では評価した。瀕死だったうちのチームも格上げされた。『課』が『部』になりましたよ」

河合「モリさんは、そこの部長にならなかったんですか?」

写真=iStock.com/gpointstudio

モリ「次長になりました。それまでもたされていた裁量権を、すべて奪われてね(苦笑)。それで半年後に、関連会社に行かされました。それが弊社です。もともと10年前に瀕死の事業部に異動になった時点で、ラインから外れたわけだし、一度外れた人がラインに戻ることはない。部下を育てろ、結果を出せ、と言われるけど、部下とは育てるモノではなく上手く使うコマ。結果とは“上に従順に動く”ってこと。それができる人が上に認められる。逆に下ばかり見ていると上を見る余裕がなくなって、上からは嫌われてしまうんです」