「性格の不一致」離婚の買値は「妻の言い値」?

では「離婚をお金で買う」として「いくら」が妥当なのでしょうか。

写真はイメージです(写真=iStock.com/BongkarnThanyakij)

結論を先に言えば、離婚の買値は「妻の言い値」になります。ここで言う「買値」とは具体的には養育費や慰謝料のことを指します。なぜ妻の言い値を支払わなければならないのでしょうか。

離婚の「大前提」は、相手の同意です。不貞や暴力など明確な原因がない場合は、相手の同意がなければ、離婚できません。

淳二さんの離婚原因は、ひとことで言えば「性格の不一致」でした。淳二さんも妻も、不貞や暴力があったわけではありません。「お互いさま」ということで、慰謝料はゼロです。しかし、淳二さんが受け入れた離婚の条件は、最初の10年で3100万円超、50余年で9300万円超というものでした。

▼「妻の同意なし」に離婚する方法はあるが……

一般的な交渉であれば、この金額をできるだけ小さくしようと努力するものです。ところが、「お金で離婚を買う」という場合、それは許されないのです。金額について交渉しようとした途端、離婚の話が立ち消えになるリスクがあるため、「妻の希望する金額を受け入れる」という以外に選択肢はないのです。交渉術や心理学、法律についての知識がいくらあっても、ここでは何の役にも立ちません。

本当に「妻の同意なし」に離婚する方法は存在しないのでしょうか。

この問いに対する答えは「存在する」です。裁判所に訴えれば、同意なしの離婚は可能です。裁判所に「離婚しなさい」という判決を出してもらうのです。判決には強制力がありますので、妻が離婚に反対していても、強制的に離婚させられます。問題は、実際に裁判所に離婚の判決を出してもらえるかということです。

「離婚しなさい」と裁判所が判決を下すためには、以下の3つの要件を満たす必要があります(なお、この3つは最低条件で、条件を満たしていても必ず離婚判決を出してくれるとは限りません)。

(1)別居期間が相当程度、長期であること
(2)未成年の子がいない
(3)離婚を認めることが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情がないこと

淳二さんの場合、(1)と(2)を満たしていません。だから、この方法は使えません。結局、淳二さんには妻を説得するしかなく、離婚のイニシアチブをとることはできないのです。

夫婦が別れてそれぞれ新しい人生を歩むのか、それとも妻と険悪なムードのまま嫌々夫婦生活を続けるのか。

それを決めるのは「妻」です。

このような不自然な力関係では、離婚の支払い条件は跳ね上がります。「金を払えば離婚できるんだろう」と考える男性が多いのですが、それは無知であり浅はかであると言わざるをえません。