鉄鋼王カーネギー、発明王エジソン、数学者フェルマー。この3人はいずれも、学校教育でなく、「独学」で成果を残した人物だ。現代は「知の制度化」が進み、かつてのような独学は通用しないといわれる。だが、それは本当だろうか。早稲田大学ビジネスファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏は、いまや独学こそが最先端に追いつき、未知の世界を開拓する最善の方法だと指摘する――。
大学受験に失敗して独学でITを学び、世界最先端の企業の一つアリババを築き上げたジャック・マー氏(写真=つのだよしお/アフロ)

型にはまらないアプローチが成果を生む

独学は創造的な勉強法です。勉強する対象への型にはまらないアプローチは、ときとして独創的な成果を生み出します。

アメリカ独立宣言の起草委員であり、独立宣言に最初に署名した5人の政治家のうちの一人であるベンジャミン・フランクリン(1706年-1790年)は、政治家であるだけでなく、物理学者、気象学者でもありました。凧を用いた実験で、雷が電気であることを明らかにしたのは有名です。

フランクリンは学校の成績は優秀でしたが、学費の負担が重いので、10歳で退学し、印刷業者の徒弟になりました。仕事場にある本や新聞などの印刷物を、仕事の合間に読みあさり、数学や科学の初歩を学ぶことができました。昼休みになると、一人職場に残り、弁当をさっさと食べてしまいます。あとは本を読んで過ごしました。

あるとき、活字を組んでいた哲学書の内容に根本的な誤りがあると感じ、それを論文にまとめ、小冊子としてわずかな部数印刷しました。すると冊子を読んだライオンズという人物が訪ねてきて、思想家のバーナード・デ・マンデヴィル(1670年-1733年)を紹介してくれたのです。それは飛躍のきっかけとなる出来事でした。

独学で鉄鋼王にのぼり詰めた男

スコットランドに生まれ、両親とともにアメリカに移住したアンドリュー・カーネギー(1835年-1919年)も、読書による独学をしています。貧しかった少年時代、本を買うことはできず、図書館も普及していませんでしたが、近くに住んでいる篤志家が、働く少年たちのために毎週土曜の夜に約400冊の個人蔵書を開放してくれたのです。カーネギーはそこに通って読書好きになりました。

1870年代にピッツバーグで創業したカーネギー鉄鋼会社は大成功し、1890年代には、同社が世界最大で最高収益の会社となりました。

カーネギーは、引退後の人生を慈善活動にささげ、教育、科学研究などに多額の寄付をしています。中でも、公共図書館の設置に力を入れました。全部で2509もの図書館を建設しましたが、それは、少年時代に利用できた個人図書館への恩返しだったのかもしれません。