母親は子どもにとって、いちばんのロールモデル

親の影響を感じるようになったのは、ここ最近ですね。教育に携わるようになったここ10年ほど、私はほぼ無給なんです。フルタイムのボランティアですね。

(上)家族が撮りためた写真は膨大で、それぞれの写真にはコメントが添えられ、ていねいに整理されている。(下)子どもの頃、休日には母娘でよくお菓子づくりをしたそう。ハンドミキサーは当時を忍ぶ思い出の品。

それで、「どうしてそんなふうにできるんですか?」と聞かれることが多くなり、「どうしてだろう?」と自分を振り返るようになって初めて、親の影響だと気づいたんです。“無私”の気持ちで奉仕する姿勢は母の影響。人の幸せのために生きることのすばらしさを、母の背中から学びました。

「普通じゃない」と言われますが、母がそうでしたから、私にとっては当たり前のこと。そんな母に対して、「ありがとうございました」と、心から言えるようになったのは最近のことです。学校はずっと公立だったし、高校生時代のカナダ留学は奨学金をいただいて行ったので、親の世話にはなっていないつもりだったのですが、自分が親になって初めて、親のありがたさに気づくことができました。

子どもは今、4歳と8歳。母は、私が小学生のときは長期休み中、中学生になってからは毎日、お弁当をつくってくれました。しかも、バスケに夢中だったので、部活の朝練に合わせてさらに早起きをしてつくってくれていたんです。今の私には到底できません(笑)。

母が仕事と育児の両立に悩む姿を私は見たことがありません。そんな母の元、私も女性が働くのは当然だと思って育ってきました。女性が生きていくうえで、ロールモデルを見つけることはとても大切。なかでも母親は、子どもがアイデンティティーを確立させるうえで大きな存在であり、母親が望むと望まざるとにかかわらず、いちばんのロールモデルになります。

今は、働くお母さんが当たり前の社会。子どもたちにはイキイキと働く姿を見せられるといいですね。そんな母親の姿を子どもは誇りに思って見ていますから。

小林りん(こばやし・りん)
社会起業家
ユナイテッド・ワールド・カレッジ ISAK Japan代表理事。1974年、東京都出身。奨学金でカナダの高校へ留学。東京大学経済学部卒業、民間企業や政府系金融機関勤務を経て、スタンフォード大学教育学部修士課程修了後、国連児童基金(UNICEF)職員としてフィリピン駐在。2009年4月から現職。

構成=江藤誌惠 撮影=齋梧伸一郎