この過程では、若干の省力化が起こるが、それよりも大きいのは、「誰でもできる」化のほうだろう。たとえば、外国育ちで今まで全く寿司を食べたことのない留学生でも寿司ネタ捌きに携われ、ホワイトカラーで定年まで全うしたサービス業未経験の高齢者が、来店者の最適誘導をこなすようになる。こうして雇用の間口を広げて、労働参加率をさらに上げる方向で、流通サービス業は生き延びていくのではないか。

自動レジなどのサービスレベルの低減と、地道なAI・メカトロ化により、若干の省力化が起きるとして、それによる雇用の減少は、これから先15年間で1割=約130万人と読む。たぶんこの段階で、大規模店では2~3割の省力化に成功するだろうが、中規模店以下では、各工程を1人で賄っている店舗が多いため、機械化メリットがない(機械化しても、すき間仕事が残ればそこに人を置かざるを得ない)。だから、多くの店舗では省力化が進まない、と考えるからだ。

「労働とは何か」という問題は残る

さて、この「誰でもできる」化は、実は、遠い将来のAI万能社会を考えるうえでの良き参考事例となる。まず、ノウハウが不要となり誰でもできるようになると、これらの仕事は賃金が下がるのか。答えは「否」だ。

理由は2つ挙げられるだろう。1つは、今でも大規模店では、こうしたノウハウ仕事を、実は、長期勤続した熟練パート社員が担っている。彼・彼女らの賃金はそれほど高くなく、新米アルバイターと大差ない。つまり、減額余地が少ないのだ。そして2つ目。これから人材確保がますます厳しくなる。その中で流通サービス業が、賃金を下げることは難しいためだ。

むしろ、機械化で2~3割の雇用削減ができた大規模店は、その浮いた人件費を、人材獲得競争に勝つために残った従業員の賃金アップに向けるのではないか。もちろん、機械の導入コストの支払いが優先事項であり、続いてノウハウの高度化(たとえば銀座の名店のノウハウをプログラム化するなど)にあて、それでも残る余資の範囲ではあろうが。

そうなると、仕事は簡単になるのに、給与は上がる。そのうえ、誰でも雇ってもらえるようになる。しかも銀座の名店と同じレベルの寿司が、市井の回転寿司店で食せる。良いことずくめに思えるだろう。

ただ、反面、労働とは何か、という問題が残る。

仕事は、機械が主となり、人間は機械がやらない「すき間」を埋めるだけ。そこにはノウハウなどほぼなく、だから、やりがいも成長も見出すことができない。ただ決められた時間だけそこで働き帰るだけ、という生活になる。それをユートピアと考えるか、ディストピアと考えるか。その答えは、いまだ出ていない。

海老原嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト/ニッチモ代表取締役
1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。
(写真=iStock.com)
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