6月初旬、アメリカの経済状況をインターネットで調べていると、「やはり」と思う記事に出会った。

アメリカ製造業の衰退を伝える内容である。アメリカのモノづくりはすでに過去のものになったという悲観論で満ち溢れていた。製造業の代わりにサービス業が伸びており、今後もアメリカ製造業は下降しつづけるという趣旨である。

それを裏付けるために、記事中には3つの柱が用意されていた。1つは製造業の就業人口の減少である。「1980年の1900万人から1400万人までと減った」とある。統計の出典が記されていないが、減少傾向にあることは間違いない。

2点目は製造業を主事業とする企業数が約36万6000社から32万社に減った事実だ。3番目がGDPに占める製造業の割合で、こちらも22%から12%にまで落ち、製造業はもう復活しないといったトーンである。記事には書かれていないが、ここにGMやクライスラーの破たんの話を加えれば説得力はさらに増す。
しかし、である。

アメリカ製造業の全体図はほとんど逆といって差し支えないのが実情だ。実質的な生産高はむしろ上昇している。先の記事のように、業界の一側面に目を奪われると、アメリカのモノづくり全般が終わりを迎えていると錯覚してしまう。

5月に出版した『なぜアメリカの金融エリートの報酬は下がらないのか』では、金融問題だけでなく、製造業や社会問題にも切り込んでいる。確かにアメリカ製造業は家電や繊維といった分野をほとんど捨てているが、ハイテク分野での製造では生産性を向上させているのである。

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 アメリカの製造業の現場を歩くと意外な事実に驚嘆する。繊維や家電といった国内業界の落日を目にすると同時に、製造業の大枠、つまり全体のパイは肥大し続けていることだ。それは製造業の競争力が向上していることを意味している。

事情に精通しているケイトー研究所のダニエル・アイケンソン氏は、メディアがアメリカ製造業の衰退をあおり、政治家がそれをうまく利用しているために製造業が弱体化しているように見えているだけだと説く。

「アメリカ製造業の力が落ちているという考えのほうが、政治家は保護主義的な政策を取りやすいのです。実は製造業の実質的な生産高は過去50年伸び続けています。売上、収益、投資額、どれをとっても伸長している。ただGDPに占める製造業の割合と雇用が減っているため、メディアはその点を過大に報道し、製造業の衰退が叫ばれるわけです」

国連統計局がまとめた国別の数字を眺めるとそれは明らかだった。

過去20年だけでも、総生産高でアメリカの製造業は世界第1位を維持し続けていた。ちなみに07年は全世界の27%(1兆8310億ドル・約164兆7900億円)を稼ぎ出している。凋落したといわれたアメリカの製造業が、である。ちなみに00年比で19%も伸びており、他国の追随を許していない。ちなみに日本は3位で、00年比では逆に10%も減少していた。