トランプにとって、垂涎のノーベル平和賞

一方、トランプ政権は米国内で11月の中間選挙を見据えた選挙対策に突入しており、経済政策では高い評価を受けている同政権の足かせとなる「外交政策への低い評価」を覆すことが1つの課題となっている。そのため、17年、大陸間弾道ミサイル発射等の挑発を受けて米国民の北朝鮮に対する問題意識が急速に高まったことで、トランプの外交手腕を見せつける場として対北朝鮮交渉は打ってつけの機会となった。

当初は強硬な姿勢を見せてきたトランプ政権ではあるものの、最近では北朝鮮に対して融和的な態度を取る方向に交渉方針が変わりつつある。実際、5月2日に共和党下院議員ら18人がトランプを朝鮮戦争終結・非核化等を功績として2019年のノーベル平和賞に推薦している。

18人を取りまとめた人物はルーク・メッサー共和党政策委員会委員長であり、インディアナ州のペンスの地盤を引き継いだ議員であることから、北朝鮮との手打ちに共和党とペンスも賛成していると捉えるべきだろう。中間選挙で上院・下院ともに苦戦が予想されている中、トランプと共和党の両者にとって朝鮮半島での歴史的偉業の達成という果実は喉から手が出るほど欲しい成果となっている。

書簡1通で交渉の主導権を取り戻した手腕

上記の通り、トランプ政権にとって北朝鮮と、その背後に存在する中国から足元を見られる環境が国際的・国内的に生じている。そのため、米国は北朝鮮に対して妥協した非核化を落としどころにする可能性が高い。しかし、国内の選挙事情を前提とした場合、北朝鮮に主導権を取られた形でトランプが金正恩に会うことは許されない。そのため、トランプは拘束された米国人解放、そして核実験場爆破という金正恩が北朝鮮の国内政局上、引き返せない行為に及んだことを見届けて、米朝首脳会談キャンセルの書簡をぶつける賭けに出た。

わずか書簡1通で交渉の主導権を取り戻したトランプの手腕は見事だ。そのうえ、トランプは北朝鮮に対する最強硬派であるボルトンを政権入りさせて政治的に抱き込んだ。仮に一定の譲歩を北朝鮮に与えても在野に影響力がある強硬な反対派は存在しない状況をつくった。トランプの選挙対策上の人事巧者ぶりも特筆に値する。

日本政府は北朝鮮に対して最大限の圧力をかけ続けると明言している。すでにトランプは北朝鮮の訪米団を迎え入れた後に「最大限の圧力という言葉を使わない」と明言したが、米国の意向にかかわらず、日本政府が同方針を継続し続けるなら、その選択は極めて正しいものだろう。米朝首脳会談が大陸間弾道ミサイルの破棄や、中途半端な非核化の合意で終わった場合、それは日本にとっては不利益な取引になるからだ。