朝鮮半島は岩盤地質の山岳に覆われ、土地の痩せた貧弱な地域です。肥沃な中国大陸の東の果てに付随する半島国家として、中国など強い勢力に隷属するしかなかったのです。それが朝鮮の悲しい宿命でした。

この隷属は「事大主義」と呼ばれます。李氏朝鮮の創始者の李成桂(イ・ソンゲ)は「小をもって大に事(つか)ふるは保国の道」と言い残しています。これは『孟子』の「以小事大」からとったもので、大国の中国に事(つか)えることが肝要とする儒教の考え方で、李氏朝鮮の国是となり、代々受け継がれていきました。

そのときどきに力を持つ者にすり寄り、状況が変わればすり寄る相手を乗り換えることは、「事大主義」という名のもと、儒教によって大義名分を与えられた立派な倫理規範であるのです。長きにわたる属国としての歴史の中で受け継がれた彼らの価値観は、「コウモリ」的な振る舞いを悪しきものとするわれわれの価値観とは異なります。

トランプの「ディール」の真の意味

トランプ大統領は6月1日、北朝鮮の金正恩委員長の右腕とされる金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長とホワイトハウスで会談しました。この会談で、トランプ大統領は「非核化はゆっくりで良い」と伝えたことを明らかにしました。その上で、「最大限の圧力(制裁)に変更はなく、現状のままだ。しかし、どこかの時点でディールをしたいと思う」と述べ、北朝鮮の主張する「段階的非核化」を受け入れる可能性に言及しました。

CVID(完全で検証可能かつ不可逆的な非核化)が達成される前に、「圧力をディールする」というのは明らかに妥協です。トランプ大統領のこの発言には、多くの人ががっかりしました。

しかし、トランプ大統領が妥協をしたからと言って、大した問題ではありません。そもそも、CVIDを達成するには、5年かかるという専門家もいれば、15年かかるという専門家もいます。たとえCVIDを追及したとしても、時間稼ぎをされるだけのこと。CVIDであろうが、「段階的非核化」であろうが、「卑怯なコウモリ」は結局、裏切るのです。

そのことをトランプ政権はよく理解しており、次に裏切った時が「卑怯なコウモリ」の首が飛ぶタイミングでしょう。北朝鮮の背後にいる中国の存在を睨みながら、アメリカは今、諜報力・外交力・軍事力などありとあらゆる力を使っています。