法律の観点からは、医薬品イノベーション、スピード感のある医薬品の臨床研究、バイオテクノロジーの適用に関する立法が段階的に進んでいく必要があるだろう。ティールは自身のベンチャーキャピタルを通してこの分野に多額の投資をしている。またティールが2004年に創業したデータ分析会社パランティアは、すでにドイツの大手製薬会社メルク・グループとがん治療の研究を行っている。

行政機関を変える

ティールは行政の分野でも大きな改善の余地があると考え、ドイツの経済専門誌ビランツのインタビューでもこう語っている。

「基本設備は、機能不全に陥っている南ヨーロッパの国々と同レベルか、もっと悪いかもしれません」

米国は公共のデジタルインフラに集中的に投資すれば、行政の効率が大幅にアップするだろう。だがそれには大きな障壁がある。すでにパランティアでティール自身が経験したように、公庁と軍はシリコンバレー発のイノベーションに対してひどい偏見を持っているのだ。市販の標準製品が手に入るというのに、彼らはリソースと経費を潤沢に注ぎ込んで、わざわざ最初から開発しようとしている。官庁がその発想を転換することが求められる。オバマ政権もすでにそのための措置を導入したが、まだ道半ばである。

エネルギーを変える

ティールは原子力の信奉者で、この分野の研究に多くの予算を投じることに賛成している。あと10倍の改善は可能だというのが、彼の持論だ。

イーロン・マスクは、テスラとソーラーシティの連携により、21世紀の新しい電力会社──分散配置された統合型の電力会社──を建設しているところだ。マスクは、太陽電池を内蔵したスレート板と屋根瓦もとり扱っている。再生可能エネルギーの分野では非常に野心的なバフェットは、大規模なソーラーパークとウィンドパークに投資している。節税にもなり、同時に新しい支払いの流れができるからである。

水圧破砕テクノロジーの導入で明らかになったように、米国は自国のエネルギー資源を活用し、しかも効率的なエネルギー採取方法と輸送方法を利用することで、国内の生産部門で大きな付加価値と雇用を生み出している。

この部門を改革あるいは「破壊」するためには、長期的な視野に立った立法と政治的意思、膨大な資金、それに米国のテクノロジー企業の連帯も必要だ。アップル、アルファベット、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフトの米国5大テクノロジー企業は、世界でもっとも高い企業でもある。そのイノベーションによって、これらの企業は世界中の数十億人もの顧客だけでなく、大勢の投資家たちも納得させてきた。テクノロジー企業側としては、政府が手を差しのべて、「テクノロジー本位のニューディール政策」を提案してくれたら悪い話ではない。

2016年12月にティールがアレンジしたテクノロジー企業のボスたちとトランプとの会合は、その第一歩だったが、経済性のビジョンに基づくその次の一歩を早く踏み出すことが求められる。美辞麗句だけでは投資家は納得しないし、次の選挙の票田にはならない。