ティールがもくろむ、トランプ政権でのイノベーション政策とは?

ではティールの目から見て、進歩的なイノベーション政策の対象となるのはどんな部門だろう?

教育を変える

米国は学校教育や専門教育の分野でかなり遅れている。世界的エリート大学として高いランクを誇るスタンフォードやバークレーがある一方で、すぐれた大学が幅広く分布しているとは言えないし、職業教育のモデルも欠如している。これがはっきりあらわれているのは社会保険加入義務のある賃金の統計だ。1979年には大卒と高卒の収入差は1万7400ドルだったが、2012年には3万5000ドルに開いている。

ティールは教育について一家言もっているが、これまでの教育のあり方は評価していない。彼は自身のティール・フェローシップで、すぐれたアイディアをもち、大学を中退して起業しようとしている若者に1人10万ドルを支給している。社会を次のレベルに引き上げるアイディアとインスピレーションあふれる人物は、大学からは生まれないと彼は考えているのだ。

それでも米国のベンチャーキャピタルは、教育部門を充実させる必要性を認識しているし、新しいスタートアップに思い切った投資もしている。その一例がオンライン教育サービス、ユダシティ(Udacity)だ。ユダシティでは、アプリやウェブサイトのプログラミング、AI、ロボット工学などきわめて実践的で良質なカリキュラムをオンラインで受講することができ、学位をとることもできる。

アメリカのヘルスケアを根底からくつがえす

ヘルスケア部門は非常に重要な分野だけに、政治の波に翻弄されることも多い。オバマケアであれトランプケアであれ、健康制度をもっと効率的にするために、米国政府は決定的なアイディアを必要としている。

ティールは、米国市民がときには他国の10倍もの薬代を支払わなければならない現状を問題視している。彼の力強い味方はウォーレン・バフェットだ。

「医療コストはアメリカ経済の競争力を奪うサナダムシですよ」

バレットはバークシャー・ハサウェイの株主総会でそう言い切った。

ティールは医学の進歩の可能性を信じていて、自身も120歳まで生きたいと考えている。アルツハイマーやがんのような難病の撲滅は、彼の懸案事項リストの中でも上位に位置している。その他にも彼の念頭にあるのは、ユーザーの栄養状態を最適化するために直接フィードバックが得られるような新しいモバイル機器だ。また体の各部位を若返らせる薬剤や方法も視野に入っている。ティールは、高齢化社会では重要なテーマがなおざりにされていると感じている。医薬品業界のとりくみも必要だが、たとえばクラウドコンピューティングやビッグデータの活用のように、ヘルスケア制度全体のデジタル改善によっても、イノベーションは実現するのだ。