多様化する人材を多角的に動機付けできる上司

もう1つ強調しておきたいのは、人材の多様化である。

日本では近年、ニートやフリーターなどが社会問題として注目されるようになった。最近の新入社員は3年程度で転職してしまう。また、これまでの労働慣行とは異なる一面も垣間見られるようになってきた。在宅勤務や育児休暇などの新たな取り扱いも、多様化の傾向を示す一端といえる。同じ正社員でも働き方に対する意識が多様化し始めている。例えば、出世して経済的な豊かさを追求するよりも、仕事はほどほどに、余暇や自分の時間に重きを置く人材が現れている。

近年、会社のバリューの見直しや浸透の再徹底、従業員サーベイを定期的に行う企業が増えている背景にも、多様化する人材の問題がある。
米国でも社内デモグラフィーにおける年代の違いによって価値観が異なる状況が見られ、その対応が「マルチ・ジェネレーション・マネジメント」と表現され、重要視されつつある。

人材の多様化は、年代別の志向だけにとどまらない。国籍も文化も違うグローバル社員の活用、急増するM&Aにおける異なる組織文化の統合といった要因が多様性に拍車をかける。これまでのように人材を画一的に捉えた対応には限界があり、もはや精神論だけでは解決しきれない変化が起こりつつあるのだ。

多様化した人材に直接向き合う現場のリーダーには、どのような「リーダーシップ」が求められるのだろうか。その課題を考えるうえで、先のデータが示す傾向にヒントがある。「リーダーシップ」の一角を成すマネジメントスタイルは、1つの要素に秀でるよりも、使い分けることに意義があるとされる。例えば、企業の成長ステージや部下の性格によって、「強制型」が必要な場面もあれば、「ビジョン型」が最適な場面もある。データは、米国企業では複数のスタイルを駆使する力が備わりつつあることを示唆している。「ビジョン型」「参加型」「育成型」といった、社員の間にどのような嗜好や不満、ニーズがあるかに聞く耳を持ち、多様化する人材を多角的な視点から動機付けてベクトルを合わせることのできる「リーダーシップ」が、今後の競争力の源泉になると強く感じる。「リーダーシップ」も多様性と柔軟性が求められる時代なのだ。

企業の論理を一方的に押し付けるのではなく、企業側と社員が対等に向き合う。仕組みで動かす部分と人の気持ちで動かす部分が組織を方向付ける両輪となる。特に日本の強みであったはずの人の心を原動力とするリーダーシップが鈍り始めて、組織が1つの方向に進まない機能不全に陥ってはいないだろうか。

決して米国型のマネジメントが正しいと伝えたいのではない。日本の強みであったことが今や米国では当たり前のことのように広がり、逆に本家本元の日本では、その強みの影が薄らいでいる状況に危機感を覚えるのである。

米国企業でも、日本型を意識的に真似たというわけではなく、ビジネス環境やニーズに応えるために行った改革がもたらした結果にすぎないのかもしれない。日本企業の一部の現場に見られる閉塞感や、言われたことをそつなくこなしておけばいいというような保守的ムードを見るにつけ、リーダーの人間性や存在感が現場を活性化するために強く問われているように感じてならない。

70~80年代は戦略経営の時代、90年代はIT経営の時代、そして2000年に入ってからはリーダーシップ経営の時代へと経営課題が変遷してきた。人を動機付け、魅了するような求心力を持ったリーダーのあり方、個別企業の風土にも合致した「リーダーシップ」について、再考が必要な時期にきているのではないだろうか。