競争力強化にはリーダーシップ変革が欠かせない

リーダーシップ開発に違いが見られるもう1つの背景に、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスの見直しがある。特に米国では、90年代後半からエンロンやワールドコムなどのスキャンダルをきっかけに、ガバナンス体制のあり方が問われてきた。日本企業でも、J-SOX法の施行をひかえ、コンプライアンスに関わる行動規範や新たな内部監査体制が確立し、グループ内に広く浸透する段階に至っている。

この流れが、リーダーシップ開発への取り組みに影響しているのである。

両国では、機構改革やコンプライアンスのための統制に時間と労力が割かれてきた経緯は共通している。しかし、米国では組織の仕組みの変革に加えて、「リーダーシップ」というソフト面の変革にも注力し、仕組みとリーダーシップの2つの要素がガバナンス改革の両輪となって全社的なコンプライアンス対策を支えている。米国で「リーダーシップ」に目がいくようになったのは、株主重視・財務偏重型の意思決定に疑問が投げかけられたことで、組織が保有する知的財産や人的資源に長期的に目を向けて競争優位を見出す動きが現れたためだ。こうしてガバナンス問題がリーダーシップ開発にさらなるドライブをかけたといえる。

一方、日本では品質管理や会計処理といった社内プロセスが不祥事で強く問題視されたため、ガイドラインや仕組みの統制に改革の重点が偏重しているように見受けられる。その結果、強制的なトップダウンの風土、ガイドラインによる統制が強く誇示されて、現場での創造性やイノベーションが制約され始めている。

不祥事の問題は、トップの交代によってすべて清算されたのであろうか。現場のリーダーシップに改善の余地はないのだろうか。これまでは人を動力にしたマネジメントや現場での問題解決に長けていたはずの日本企業のガバナンス改革が、仕組みづくりによって統制する方向へ向かう動きには、米国と逆転現象が起きているような印象を受ける。

このようなキャリアパスの違いとコンプライアンス対策という2つの要素をまとめると、ここ10年、リーダーシップ開発を進める内的、外的な圧力が米国では大きく働き、リーダーシップを体系的かつ客観的に捉えた開発が進められてきたといえる。その結果として、先のデータが示すバランスの取れたマネジメントスタイルの傾向が現れ始めているのである。日米間のリーダーシップ開発の取り組みの温度差は、今後益々大きな差となって企業の競争力を引き離す可能性を秘めている。