アップル、グーグル創業者らをトランプと「和解」させる

トーマス・ラッポルト、赤坂桃子訳『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』(飛鳥新社)

トランプのテクノロジー・アドバイザーという役割は、2016年12月半ば、すなわち大統領就任前の移行期にすでに世間が知るところとなった。シリコンバレーの大物たちとトランプとの間の溝を埋め、建設的な道筋をつけるために、ティールはトランプと、ティム・クック(アップルCEO)、ジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)、ラリー・ペイジ(アルファベットCEO)、シェリル・サンドバーグ(フェイスブックCOO)、サティア・ナデラ(マイクロソフトCEO)、イーロン・マスク(テスラCEO)、アレックス・カープ(パランティアCEO)との会合を設定して、成功を収めた。

彼が成功したのはテクノロジー業界のトップたちとトランプを同じテーブルにつかせたことだけではない。トランプは出席者を「すばらしい人たち」と表し、「世界のどこを探してもあなたたちのような人はいない」と持ち上げて、力になれることがあれば何でもすると発言したのだ。選挙中にアップルとアマゾンを猛烈に非難したのとは大ちがいだ。

「影の大統領」として腹心たちを送りこむ

オンライン政治メディアのポリティコはティールを「影の大統領」と名づけた。最近では彼に近いスタッフがそう呼んでいるらしい。多くのミーティングにも出席している彼は、政権でかなりの存在感を発揮している。

チェスの名手のティールは、自らのスタートアップの経験から、適切な人材を適切なポジションに配置する術を知っている。そうすれば、これまでのワシントンの「泥沼」がきれいに干上がり、彼が信頼するスペシャリストが枢要なポジションにつき、規制を緩和して、イノベーションの促進を図れるかもしれない。

ティール・キャピタルで参謀役だったマイケル・クラツィオスは、トランプ政権の副最高技術責任者(CTO)に就任した。副CTOはホワイトハウスの科学技術政策局と連携して、データ、イノベーション、テクノロジーといった課題を扱う。クラツィオスは、ティール・キャピタルに加わる前はティールの投資会社クラリウムの最高財務責任者(CFO)だった。

ミスリル・キャピタルのパートナーの一人だったジム・オニールは、当初は食品医薬品局(FDA)長官への起用が取りざたされた。FDAは保健福祉省の管轄下にある政府機関だ。オニールはブッシュ政権時代に保健福祉省で働いた経験もあるが、過去に、製薬会社は新薬販売前に(時間を食いすぎる)臨床試験を行う必要はない、「消費者に自己責任で使ってもらえればいい」と発言したことがある。

メディアは、オニールのようなリバタリアンを影響力のある地位に担ぎ出せれば、ティールにとっては大成功だと見ていた。しかし2017年5月、トランプは、より穏健なスコット・ゴットリーブを長官に指名した。

トレイ・スティーブンスについても触れておこう。スティーブンスは現在、ファウンダーズ・ファンドで官公庁相手のスタートアップを専門に担当している。彼は以前、国防総省の政権移行チームを率いていた。ペンタゴンで軍の調達プロセスについて質問するほど物怖じしない性格だ。