ある飲食店経営者の自死

パン屋の経営は、いつまで経ってもいっこうに上向きません。いつしかAさんは、農産物直売所の運営と農作業に加え、日が明ける前の早朝にパンの仕込みまでするようになっていました。少しでも人件費を削減しようと思ったのでしょう。

朝4時にパン工房に行って仕込みをし、それから畑に行って農作業をし、その後、直売所で夜7時ごろまで働きます。さまざまな会合に出席し、それから再びパン屋に戻って、レジを締めたり、翌日の準備を行ったりします。あまりのハードワークで、睡眠時間は毎日3~4時間確保するのが精一杯というありさま。

Aさんは、しだいに弱音を吐くようになりました。「毎月100万円も赤字だよ。参っちゃうよ」と、こぼしていたそうです。

そんなAさんが突然、自死を選んだのは、パン屋のオープンから半年後のことでした。

彼はなぜ、お店を閉めるという選択をしなかったのでしょうか。人気の農産物直売所一本に立ち戻って、やり直すことはできなかったのでしょうか。真相はわかりませんが、本当に残念でなりません。

断言します。引退後に飲食店を経営して成功できるのは、飲食業界にいて必要な経営スキルを身につけている方だけです。ノウハウのない人が安易に手を出すと「地獄」を見ます。

三戸政和(みと・まさかず)
株式会社日本創生投資代表取締役CEO。1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先にてM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、事業再生支援を行う株式会社中小事業活性の代表取締役副社長を務め、コンサルティング業務も行っている。