携帯電波届かなくてに現在地がわかる山の地図アプリ

【田原】従業員は何人くらい?

【春山】その当時会社自体の従業員は80人前後だったと記憶しています。ただ、『風の旅人』編集部は、編集長と私ともう1人の3人だけ。雑誌の編集や営業をしながら、2カ月に1度、世界の秘境ツアーの添乗員もやっていました。

【田原】その会社を30歳を前に退職される。どうしてですか?

【春山】厳しい職場でしたが、そのうちに馬力がついてきてひと通りの仕事はできるようになり、自分で独立してやってみたいなと思いまして。もう1つ、30歳になる前に北スペインのカミーノ・デ・サンティアーゴという巡礼の道を歩きたかった。退職後は実際、イベリア半島の北側を1200キロ、60日かけて歩いてきました。

【田原】巡礼の旅のあとは?

【春山】福岡に戻って自分の会社を立ち上げました。東京で働いてみると、東京は思った以上に住みやすい街で、仕事も多い。東京のよさを身にしみて実感しました。でも、東京のよさがわかると、一方で自分の故郷が寂しく見えたんです。だからこそ、福岡へ戻りたいと思いました。生まれたところや住んでいる街によってスタートラインが異なる社会は嫌だなと。東京でなくても自分が好きな街で、地方でも勝負ができるというロールモデルをつくろうと思ったんです。

【田原】なるほど。立ち上げたのはどんな会社ですか。

【春山】学校案内や会社案内の冊子、明太子屋さんの包装紙をつくる制作会社です。雑誌編集の経験を活かして、ひとりで仕事をしていました。

【田原】2011年に大分県の九重連山に登って、YAMAPの事業を思いついたそうですね。

【春山】九重でグーグルマップを開いたとき、真っ白な画面の上で自分の現在地を示す点だけが移動していることに気がついたんです。通常、携帯の電波が届かない山の中では、スマートフォンの地図アプリでは地図を読み込めません。でも、GPSは衛星から拾っているので、山の中でも使える。そこでスマホをGPS機器として使って、山の中で自分の位置情報を地図上で把握できるサービスを思いつきました。

【田原】つまり携帯の電波が届かないところでも使える。

【春山】はい。携帯の電波が届かない場所でも現在地がわかる山の地図アプリをつくりました。それが「YAMAP」です。

【田原】よくわからない。電波が届かないのに、どうして山の中で地図が読めるんですか。

【春山】仕組みはシンプルです。携帯の電波が届くところで、YAMAPアプリから事前に必要な山の地図をダウンロードしてもらいます。登山中はスマホに保存されている地図を表示。その地図の上にGPSで現在地を示します。

【田原】そんなことができるの?

【春山】カーナビと原理は同じです。カーナビは、携帯の電波が届かない山の中の道路でも使えますよね。あれも機器に保存している地図情報とGPSの組み合わせです。