屋久島での「出会い」のあとに山に登り始めた

【田原】これも不思議。北海道など知らない土地に行くならわかるけど、どうして九州なの?

ヤマップ 代表取締役 春山慶彦氏

【春山】九州のことをよく知らなかったので、まずは故郷である島をしっかり見たいなと。自転車だと10日前後で九州を一周できます。大きさもちょうどいいなと。

【田原】食事や宿泊はどうしました?

【春山】基本、野宿です。町の定食屋さんでご飯を食べて、公園や営業時間が終わったガソリンスタンドの軒先で寝ていました。長崎の公園でオジサンに抱きつかれて、慌てて逃げたこともありました。

【田原】旅の途中で訪れた屋久島で、素敵な出逢いがあったそうですね。

【春山】屋久島の永田という集落にウミガメが産卵にやってくる浜があります。浜の近くの旅館へお風呂を借りにいったら、ご主人と意気投合。「いろいろ教えてやるから、しばらく働いていかないか」と誘われて、1カ月ほどお世話になりました。海に潜って銛で魚を獲る方法から魚のさばき方まで、本当にいろいろ教えていただきました。

【田原】貴重な体験だ。でも、どうして1カ月でやめちゃったんですか。

【春山】当時は大学生。2~3カ月働くと単位を落としてしまいます。

【田原】大学に戻ったあとは何を?

【春山】屋久島で自然の素晴らしさに気づき、次は山に登り始めました。自転車の旅もおもしろかったのですが、見える景色は車から眺めるものとそんなに変わらない。「自分の足で歩いて景色を見たい」とその当時お世話になっていた大学の先生に相談したら、その先生が山好きの方でして。「一緒に山へ登ろう」と登山に連れて行ってくれました。

【田原】それで登山の虜になった?

【春山】はい。ただ、最初はすごくキツくて、山に登る意味がわからなかったです。下山して街に戻ると、山で見た景色がフラッシュバックしてきて、また山へ行きたいと自然と思うようになっていました。山から街を見渡す経験も初めてで、自分が生きている世界を立体的に捉えられるようになったというか、俯瞰して見えるようになったというか。

【田原】よくわからない。俯瞰して見たければ、飛行機に乗ればいいじゃない?

【春山】おっしゃる通りですが、自分の足で山に登って見る景色のほうが実感をもちやすい。すっかり山が好きになり、休みのたびに行くように。日本アルプスも登ったし、滋賀の比良山系にもよく足を運びました。京都の北山にある芦生の森も大好きな場所です。