「友情」が効果を発揮するメカニズム

感情は、人びとの行動も変えさせる。作家のダニエル・ピンクは、自身のテレビ番組で、身体障害者用の駐車スペースでの違法駐車をやめさせようと試みた。障害者用の標識を、車椅子に乗った人の写真に変えたところ、違法駐車をする者は減ったどころか、まったくいなくなってしまった。写真で人の顔を見て、違法駐車をすれば相手がどんな気持ちになるかを思い浮かべることが、人びとの行動を変えたのだ。

相手の感情を動かすという方法を、職場での論争にも活用できるだろうか? それも真剣な交渉の場で? 答えはイエスだ。ハーバード大学ビジネススクールのディーパック・マルホトラが、賃金交渉の際に最も重要なこととして学生に教えたものは何だっただろうか? それは、交渉相手から好かれることだ。

なぜ友情は、対人関係で、あるいはビジネスの関係でさえ、これほど実効力のあるモデルなのだろう? その理由は詰まるところ、交渉人たちが「価値創造」と呼ぶものにほかならない。

双方のためにパイ全体を大きくすることができる

交渉モデルにはまり込んで抜けだせないとき、私たちはいつも短期的なコストと利益にばかり目が行っている。友情による誠実さと信頼がなければ、相手と競争関係になってしまう。すなわち、相手が自分より多く得ることを良しとしない。

ところが相手との関係を友人関係のように扱うと、もっと多くの情報を交換でき、たがいのニーズを満たす新たな方法を探すことができる。あなたにとって安上がりなことが、相手にとっては高くついたり、またはその逆もあるだろう。相手より大きなパイの一切れを取ろうとするかわりに、双方のためにパイ全体を大きくすることができるのだ。

友情の多くの要素が、良い交渉につながることは、調査でも裏づけられている。楽しい気分が、良い交渉者を生むからだ。交渉過程に対して前向きな気持ちにある人びとのあいだでは、商談がまとまりやすく、また、結果に対して両サイドが満足する可能性も高くなる。さらに、友人同士のように冗談を飛ばすことで、信頼関係も築ける。

エリック・バーカー(Eric Barker)
大人気ブログ“Barking Up The Wrong Tree”の執筆者。脚本家としてウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスなどハリウッドの映画会社の作品に関わった経歴をもち、『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』は、初の書き下ろしにして全米ベストセラーに。