死んだあとのことは生きている人に一任します

「壮介のその後を書いてほしい」という声もたくさんいただきましたが、彼らのさらに20年後を描くとなったら、介護や終活の話が出てきて大変です。それに私、「終活」ってどうも性に合わないんですよ。先日も「終活」をテーマに女性誌の取材を受けたとき、「エンディングノートは書かないし、死んだあとのことは生きている方に一任します」って。

取材したライターは、やんわりとした表現の原稿にしてくれましたが、そこに「私は、死んだあとのことを決めるのは生きている人のマターだと考えています」と書き加えました。死ぬ前にいろんなことを整理して、残された人に迷惑をかけないように、というのは正しい。だけど、私はどうもそういうことをまとめると、生きる力が出てこない(笑)

たぶんライターは、私が60代になってから大学院に通ったり、その後も国学院で神道を学んだりしていることを、ポジティブな「終活」と捉えてくれたのだと思います。人生の終盤を迎え、思い残すことのないよう学んでいると思ったのでしょう。

でも、そうじゃなくて、単に趣味の大相撲を研究したかっただけなんです。私に限らず、定年を迎えた「終わった人」が大学院で何を学んだところで、それを生かす場なんてほとんどない。それは、その学びを生かしてほしいと期待されていないということだと思います。寂しいと思うのは当然ですが、期待されない自由さもありますよね。自分の好きなように動けばいいという。

脚本家の内館牧子さん(撮影=原 貴彦)

大相撲のほかにも趣味を深めれば、老後は退屈しない

私が完全に終わったら、天文学と『古事記』を学びたいですね。もちろん、生かす現場なんてありませんし、生かそうとも思いませんよね。でも、大相撲のほかにもいろんな趣味を深めれば、少なくとも老後は退屈しない。そう思っているんです。編集者は「そんなの寂しいです」と言っていましたが、他からの期待を意識せずに楽しめることは、若い時にはない快感ですよ。

映画『終わった人』では、舘ひろしさんが壮介を演じてくれました。私はもっとしょぼくれた平均的な「オジサン」を想像して書いたので、キャスティングを聞いたとき「ウソ! あり得ない」と言いました。あの舘さんがこんなさえないオジサン役を引き受けてくれるはずないと思ったんです。でも、聞けば快諾してくださったとか。

私も一瞬だけスクリーンに出ますので、舘さんとは現場でご一緒しました。みなさんのイメージ通り、とってもダンディーでした。そのままではシャープすぎるので、おなかに「さらし」を2枚も巻いて、わざと体形を崩していましたね(笑)

あり得ないキャスティングと、中田監督のコミカルな演出のおかげで、映画版はシニア世代の方にとって、救いのある内容になったんじゃないでしょうか。シニカルな原作が、ハッピーエンドの形で成就して、私もうれしいです。

内館 牧子(うちだて・まきこ)
脚本家
1948年、秋田県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、三菱重工業に入社。13年半の会社員生活を経て87年に脚本家デビュー。主な作品に、ドラマ『都合のいい女』(フジテレビ)、『ひらり』『私の青空』(NHK朝の連続テレビ小説)、『毛利元就』(NHK大河ドラマ)、『週末婚』(TBS)などがある。大の格闘技ファン、特に好角家で知られ、2000年に女性初の日本相撲協会横綱審議委員会審議委員をつとめ、2010年1月に退任。2006年には、東北大学大学院文学研究科で、論文「大相撲の宗教学的考察―土俵という聖域」で修士号を取得。