資産運用に成功している人のお金との向き合い方、行動様式とは──。多くの投資家にアドバイスをしてきた長岐隆弘氏に聞いた。

お金に対する考えが行動をロックしていないか

──ビジネスパーソンの資産運用について、アドバイスをする立場として感じることはありますか。

【長岐】将来への不安はあるが、なかなか具体的な行動に出られないという人が案外多いように思います。そうした人に話を聞いてみると、「お金」に対する考えにある傾向が見られる。典型的なのは、「お金は一所懸命働いて稼ぐべき」というものです。投資や資産運用は、どうも自分には合わないと言う人が少なくありません。もちろん、真面目に働いて収入を得ることは大事ですが、一方で今の時代は複数の収入源を確保して、自分自身でセーフティーネットを用意することが求められます。例えば今から30年ほど前、日本の定期預金金利は最高6%ほどありました。「72の法則」(72÷金利[%]=元本が2倍になる年数)に従えば、単純計算で12年で預金が倍になったわけです。ところが現在の金利はほぼゼロ。仮に0.1%で計算しても、預金が倍になるには720年かかります。

預金金利は一つの例ですが、いずれにしてもお金を取り巻く環境はかつてとは大きく変化している。その中でマインドセットが日本の景気が非常に良かったときのままだとすれば、そこには大きなギャップが生まれてしまいます。まずは自分のお金への考えが行動をロックしていないか。見つめ直してみる必要があるでしょう。

──具体的に資産運用を始めるにあたり、何から取り組むべきでしょうか。

【長岐】将来にわたって必要とする収入、目標とする資産額などを定めることは重要です。ただ私自身はむしろその前段階がいっそう大事だと思っています。たとえ何十億円の資産を持っていても、それ自体が人を幸せにするわけではありません。自分や家族が幸せになるためにいくら必要なのかをしっかり考える。そのために、自分の価値観を洗い出し、やりたいことをはっきりさせ、プランを練ってほしいと思います。

その際に有効なのが、パートナーや子どもたちとお金の話をすることです。あるセミナーで「50万円手に入ったら何に使うか?」を親子で話し合ってもらったことがあります。貯金はダメ、親子で意見を一致させるという条件で。そうすると、まさにお金への考え方や価値観がそれぞれの親子の間で浮かび上がってきました。

資産運用を始める前にすべきこと

長岐氏へのインタビュー、著書『見える化すればお金は増える!』を参考に作成。

ビジョンがあいまいだといい結果は得られない

──資産運用がうまくいく人、いかない人のメンタリティーの違いなどを感じることはありますか。

【長岐】サンクコストのとらえ方には、はっきりとした差があるように思います。サンクコストとは埋没費用と訳され、簡単に言えば「もう戻ってこない、回収できないコスト」のこと。投資をしていれば、金融商品でも不動産商品でも資産価値が上昇、下落します。このとき明確な基準を持って、ある種、機械的に利益確定、また損切りできる人は資産運用に向いています。人間は感情の生き物ですから、どうしても「まだ何とかなる」「もう少し我慢すれば」などと考えてしまう。しかしそれが、別のチャンスを逃すことにつながってしまう場合があります。「サンクコストと機会費用」は経営のキーワードですが、資産運用においてもそれとどう向き合うかは重要なポイントです。

サンクコストをどうとらえるかは資産運用においても重要なポイントです
長岐隆弘(ながき・たかひろ)
アセットライフマネジメント株式会社 代表取締役
一般社団法人不動産投資家育成協会 代表理事

不動産鑑定士。早稲田大学法学部卒業。住宅メーカーや大手不動産会社、メガバンクを経て独立。ファイナンスや税務にも精通する全国でも数少ない不動産鑑定士として、投資家へのアドバイスを行う。講演、各種セミナーの講師も多く務める。

──資産運用にあたって、金融機関や不動産会社などの事業者をどう見極め、付き合っていくか。アドバイスはありますか。

【長岐】当然のことではありますが、良好なパートナーシップを構築できる相手かどうかは見極める必要があるでしょう。特に不動産の現物に投資をする場合は基本的に人を介して取引することになりますから、お互いの信頼関係は大切になります。たとえ同じエリアの商品でもその特性は一つ一つ違うわけで、それを理解するにはやはり相手とのコミュニケーションが大事になってきます。さらに、インカムゲインを目的とした長期投資であれば、物件の管理面でも長い付き合いになりますから、自分の考え、思いを正しく理解してもらえる人や会社を選ばなければなりません。

──最後にあらためて、これから資産運用を本格的に始めたいという人へメッセージをお願いします。

【長岐】繰り返しになりますが、お金の多寡に目を向ける前に、まず自分自身の価値観、何が幸せなのかを“見える化”してほしいと思います。これまで多くの方の資産運用をサポートしてきて強く感じるのは、人はしっかりと見えるものだけを手に入れられるということです。ビジョンや進むべき方向があいまいなまま行動しても、いい結果は得られません。

自分や家族の思いがこもった目標、プランを立て、その後は冷静沈着に行動する。これが成功の秘訣です。収入や健康など誰しも将来への不安を抱えていると思いますが、本業の収入がある現役のうちから行動を起こすことができれば、それを解消する方策を手に入れることは十分に可能なはずです。