職場を活性化させる「心理的安全性」

誰かが慢性的に不機嫌な職場が、良好な人間関係といえるでしょうか? とくに、上司が8割方不機嫌な職場だったら?

教室における教師が場のインフルエンサーであるように、職場における上司もまた場の支配者です。上司の不機嫌を部下のほうでなおすのはそう容易なことではなく、場全体が不機嫌なままに仕事が回っていくことになります。

「なんでこんなこともできないんだ」
「もういい、俺がやる」

上司がこんな物言いをする職場ですと、部下はたちまち萎縮します。不機嫌をこれ以上刺激しないように、報告・連絡・相談に尻込みするようになり、思いついたアイデアも共有することなく、ストレスフルであるがゆえに集中力が落ちて、仕事の効率も下がっていく……こうした事例は後を絶ちません。このような職場でイノベーションは起こり得ないでしょう。

実際、2012年から米グーグルが生産性の高い職場を実現するための調査研究を行った結果、最も大事な要素が「心理的安全性」であると結論付けました。心理的安全性がある職場とは、先ほどの紹介した例のような「否定されたり攻撃されたりする」心配がない職場を指します。

現代は「給料はそれなりに多いけれど不機嫌な職場」より「給料は少し下がるけれど上機嫌な職場」が求められる時代なのです。部下がたびたび離職するのでは上司としての資質が疑われます。

居心地のよい環境づくりも上司の職務

人間が快適に生きるには「プラスの要素」がどれくらいかだけではなく「マイナスの要素」がどれだけ少ないかも大事です。不機嫌による膨大なストレスは、間違いなくマイナスの要素といえますから、みんな多少の給料の多寡は度外視して上機嫌な職場を選んで当然です。

上機嫌な職場は、離職率も小さくなり、仕事の効率が上がるのです。

教師が不機嫌ではならないのと同じように、上司もこれからは不機嫌でいてはいけないのです。もはや、仕事中の自分自身から、ひいては職場のメンバー全員から、不機嫌を排除していくというのも、ビジネスパーソンに求められる能力といえるでしょう。居心地のよい環境づくりも上司の職務です。

職場の不機嫌も、ハラスメントにつながる時代です。パワハラに関しては、不機嫌を抑える技術が身につけば9割方解決する問題ではないかと私は考えています。職場での不機嫌は、あなたの低評価につながるだけでなく、社会人人生に致命的な問題を引き起こすこともわきまえましょう。

齋藤 孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部 教授
1960年生まれ。東京大学法学部卒業。同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書に、『だれでも書ける最高の読書感想文』『三色ボールペンで読む日本語』『呼吸入門』(以上、角川文庫)、『語彙力こそが教養である』『上機嫌の作法』『三色ボールペン情報活用術』(以上、角川新書)、『声に出して読みたい日本語』(草思社)『『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)など多数。
(写真=iStock.com)
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