高齢期の必要資金の手立ては三つしかない

将来的に公的年金の給付水準が低下し、長寿化が進む中で、高齢期の生活資金をいかに確保するか。手立ては三つしかない。

一つは、一刻も早く高齢期の生活資金としての資産形成を始めることである。筆者らの試算によれば、30歳から可処分所得(税引き後)の1割を高齢期の生活資金として資産形成すれば、85歳時点で金融資産が枯渇する世帯の割合は48.8%から31.8%に低下する(図表1)。

上記の現役期の平均年収500万円の場合、30歳からの1割の資産形成により、65歳時点での金融資産は約1700万円に達し、その結果、金融資産が枯渇するのは90歳頃まで延びることになる(図表2)。50歳からでも遅くはない。65歳になるまでは15年間あり、金融資産の上乗せ可能額は決して小さくない。実際には子育てや教育など、目の前の支出が第一になることがほとんどだろうが、将来の生活のための資金を少しでも確保することが重要である。

二つ目は、退職金や企業年金を高齢期の生活資金に回すことである。長い間苦労して働いたご褒美として退職金の一部を海外旅行などに使いたいと考える人は多いだろうが、将来に残しておく分をよく検討した上で、計画的に使うことが必要である。

最後の三つ目は、できる限り長く働き就労収入を得ることである。高齢期に収入があれば、その分、金融資産の取り崩しを減らせる。例えば、65~74歳に年間100万円の追加的な世帯収入があると、85歳時点で金融資産が枯渇する世帯の割合は、前述の48.8%から31.4%まで低下する。これに、先の30歳からの可処分所得の1割の資産形成を加えると、この割合は14.8%まで低下する(図表1)。上記の現役期の平均年収500万円の場合、30歳からの1割の資産形成と74歳までの追加的な年間100万円の就労収入により、金融資産が枯渇することはほとんど考えにくい状況となる(図表2)。

公的年金の給付水準の低下はほぼ確実に起きる未来である。長寿化もほぼ確実に生じるだろう。そうした将来確実に生じることに対して、今後の収入や支出には絶えず不確実性が伴うが、その中で、いかに確実な部分を高めるか。そのための資金戦略、仕事戦略を立て実行すれば、高齢期の生活は相当乗り切れるというのが、試算から得られたメッセージである。

横山重宏(よこやま・しげひろ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済政策部長 上席主任研究員
1967年 三重県生まれ。1992年 名古屋大学理学研究科博士課程(前期課程)修了、同年三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(当時、三和総合研究所)入社。労働経済、労働問題、年金問題、マクロ経済、計量経済分野において調査研究に従事。
小林庸平(こばやし・ようへい)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員
1981年 東京都生まれ。2018年 一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了、博士(経済学)。経済産業省経済産業政策局産業構造課課長補佐等を経て、現職。専門は、公共経済学、財政・社会保障、エビデンスに基づく政策形成等。主な著作に『徹底調査 子どもの貧困が日本を滅ぼす』(共著、文藝春秋、2016年)、『財政破綻後 危機のシナリオ分析』(共著、日本経済新聞出版社、2018年)など。
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