約60年間で20人脱走は「多い」のだろうか

次に5月2日付の読売新聞の社説。後半部分で「脱走者が後を絶たない実態は看過できない。1961年の開設以来、今回で20人目だ」と指摘してこう訴える。

「開放的施設の趣旨は理解できるが、ここまで脱走例が多いとなれば、その理念が台無しになりかねない。監視体制に不備があるとも言わざるを得ない。収容者の選考方法も再検討すべきだ」

約60年間で20人が脱走しているのは「多い」といわれれば、そうかもしれないが、3年で1人の割合である。毎日社説が指摘していたように大井作業場以外の開放的3施設では脱走は起きていない。それゆえ開放的施設の理念に問題があるのではなく、大井作業場に固有の問題点が潜んでいるのだ。

さらに読売社説は「法務省は、顔認証システムを用いた警報装置導入や収容者へのGPS端末装着を進める方針だ。同様の騒動を防ぐためには、やむを得ない措置だと言えよう」と毎日社説と正反対の主張をする。

性悪説に立った考え方なのだろうが、受刑者の人間性を損なうことに対しては慎重になるべきだ。読売社説の主張には違和感を覚える。

大井作業場に固有の問題が潜んでいるのではないか

産経新聞の社説(5月2日付)は終盤で「事件を受けて法務省では、開放施設での監視体制を話し合う検討委員会を設置した。顔認証技術や衛星利用測位システム(GPS)の利用が議論されている。再発防止策は必要である」と言い切る。

読売社説以上に手厳しいが、この後でこうも主張する。

「しかし開放施設では受刑者が社会に近い環境で刑務作業を行うため、スムーズに社会復帰できるとされる。今回の作業場でも、出所した後に再び刑務所に戻る割合は他の施設より大幅に低かった」
「自立を促す作業場の長所までなくしてしまってはならない」

当然な主張だが、GPSに賛成する論調とどこか矛盾していないだろうか。産経社説には開放的施設の長所を生かすにはどうすればよいかまで具体的に論じてほしかった。

それに産経社説は大井作業場にこの施設固有の問題が潜んでいることにも気付いていない。社説を担当する論説委員たちの議論が不十分だったのだろう。

(写真=時事通信フォト)
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