ルートに関する情報が最重要機密事項であるとすると、UAVがルート調査の目的で使用されていたことを示す文章以外にも、解せない記載が『日報』の中にいくつかある。例えばバスラ空港に配置された自衛官から入ってくる業務報告内容の扱いだ。

バスラからの報告のうち、「定例情報収集」の欄は、継続して黒塗り対象となっている。ところがわずかに黒塗りされていない2005年10月30日のような日の『日報』がある。もし「定例情報収集」が実際に「定例」であった場合、つまり同じ調査対象に対するものであった場合、一つの黒塗り漏れで、その他の全ての箇所の黒塗りが意味を失う。

黒塗りされていない箇所には、「情報要約書、MND(SE)SITREP、MSR/ASR脅威情報等」と記載されている。「MND(SE)」は、Multinational Division(South East)のこと、「SITREP」はSituation Reportのこと、「MSR/ASR」はMain Supply RouteとAlternate Supply Routeのことだと推定できる。したがってバスラ空港に配置されていた自衛官が定例情報収集を通じて主要な調査対象としていたのは、主要/代替供給ルートに対する脅威に関する各種情報だった、ということである。

もしこれが黒塗りし続けていかなければならない最重要機密情報であったとしたら、2005年11月3日『日報』の「MSR・ASRにおける事案の発生状況」という地図付きのページは、果たして本当に黒塗りにしなくてよかったのか、疑問が残る。その地図には、単に2005年10月の「即製爆弾発見」などの事案が記載されているだけではない。「ASR BISMARCK」「ASR CIRCLE」「ASR DALLAS」「MSR TANPA」などのルートが、地図上で示されてしまっているのである。この地図を入手した者は、あとは選定されたルートの名称の情報を得ただけでも、実際にどの道路を使うかが特定できてしまう。

自衛隊のイラクでの活動は、すでに10年以上前に終了しており、新たに派遣されるという可能性も乏しい。そう考えれば、『日報』公開には大きな不利益がないということはできる。しかしイラクは依然として不安定であり、さまざまな軍事活動も行われている地域だ。日本はもう関係ないので、他国に配慮もしない、という態度があるように見えたら、望ましくない。

「情報収集活動」の公開は適切といえるか

『日報』では、定期的に「金曜礼拝」で、説法者である宗教指導者が何を言ったか、それぞれのモスクに何人が集まっていたか、といったことが記録されている。同時に10カ所くらいのモスクで「情報収集」していることがわかる。

自衛隊員が直接的に行っている活動ではないだろう。そこで現地イラク人の「雇用表」を見ると、継続して「調査員」の項目で8名が雇用されていたことがわかる。「アドバイザー」という役職を持っていた者も1名いたらしい。500人弱の雇用者の中で、通訳も60人強雇っていたりしたので、機動的な運用もできたかもしれない。