スピードを見れば、その会社の成長力が見える

この点において、トヨタは他社に大きく先行していると言えるでしょう。次世代自動車産業においても、トヨタがこれまで蓄積してきた知見に、他社がキャッチアップするのは、容易なことではないのです。

「スピード、すなわち同期化を見れば、その会社の業績や成長力が見える」

これは経営コンサルタントとして私が企業を最初に見るときの重要な視点の一つです。スピード経営がより重要な時代が到来していますが、特に開発・製造・販売での三位一体、関連部門間における経営の連鎖、高頻度でのPDCAの徹底などが必要となる製造業においては、その会社がどれだけのスピードで経営サイクルを回しているのかに全てが凝縮されているのです。

そしてそのスピードの大きな源泉となっているのが同期化。関連するすべてのプロセスのタイミングをそろえること。トヨタの生産方式のみならず、セブン-イレブンとメーカーのチームMD、ユニクロのSPA方式なども同期化が生命線になっています。

トヨタの経営方式こそが、トヨタ最大の武器

組織における課題には多くの場合、組織間に壁がある、連鎖がされない、情報共有されない、リードタイムが長い、在庫が減らせない、欠品が減らせない、誰も意思決定しない、誰も責任を取らないなどの問題があります。開発・製造・販売が連鎖しないで、独自の考えに基づいて商品・販売・生産計画を立てることで、それぞれの部門間にバッファーやグレーゾーンとして在庫や欠品が蓄積してしまうことも、少なくない企業で引き続き経営課題になっているでしょう。

実は、「製造工場において在庫を減らすポイントとは何か」と「組織において経営スピードを上げるポイントとは何か」とは酷似しています。これらの問題解決を組織的かつ継続的に行ってきているトヨタの経営方式こそが、次世代自動車産業でもトヨタ最大の武器になると筆者は考えているのです。

田中 道昭(たなか・みちあき)    
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティングおよびリーダーシップ&ミッションマネジメント。上場企業の社外取締役や経営コンサルタントも務める。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』など。
(写真=時事通信フォト)
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