モービルアイを買収するに際して、自動運転事業の本拠地を移すことになったイスラエルには、グーグル、アップル、マイクロソフトをはじめ、IT企業を中心に多くの米国企業がR&D拠点を設けています。もっとも、インテルはすでに1974年から同国に開発拠点を置いており、先駆け的な存在として長い歴史を持っています。インテルは、来る次世代自動車産業でも王座を奪還、優位に立つべく、自動運転事業の本拠地を移すほどの覚悟で臨んでいるのです。

重要なのは「マッピングソフトウェア」の技術

モービルアイは車載画像認識チップであるEyeQで有名な企業ですが、筆者が最も注目しているのは、2016年にリリースされたマッピングソフトウェア「Road Experience Management(REM)」です。REMは、独自のEyeQファミリーの車載チップと連携して、低帯域幅のインターネット経由で道路およびランドマークの情報を収集するソフトで、これによりリアルタイムで地図マップ更新ができるようになるものです。

完全自動運転の段階になると、地図データシステムにおいては、リアルタイムで地図データと実際の道路状況との相違点が更新されることが必要となります。モービルアイでは、REMに全ての自動車メーカーが参加し、走行データを集約させ、完全自動運転でのデファクトスタンダードにすることを目標に掲げているのです。

インテルは自動車業界との提携も進行中です。自動車メーカーでは、ドイツのBMW、フォルクスワーゲン、米国のGM、日産自動車と提携関係にあります。また、車載コンピュータのドイツのコンチネンタル、高精度3次元地図のドイツのHEREとも協力しています。バイドゥやテンセントが出資する中国の新興EVメーカー「NIO」へもAI用半導体を供給。エヌビディアと同じように、バイドゥの自動運転プラットフォーム「アポロ計画」へもパートナーとして参画しています。

自動車業界の主要プレイヤーとエコシステムを構築しているという点ではエヌビディアもインテルも同じ。両者の戦いは、それぞれのエコシステム同士の激突でもあるのです。

田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティングおよびリーダーシップ&ミッションマネジメント。上場企業の社外取締役や経営コンサルタントも務める。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』など。
(写真=ロイター/アフロ)
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