中国が“エンジンのないクルマ”である「電気自動車(EV)化×自動運転化」を加速させています。エンジン車では日米欧には追いつけないため、次世代の自動車産業で「強国」になろうとしているのです。しかも中国は国際条約を批准していません。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「自動運転走行やその実証実験について、中国はフリーハンドで実施できる優位な立場にある」と分析します――。(第2回)

※本稿は、田中道昭『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』(PHPビジネス新書)の第6章 「『中国ブランド』が『自動車先進国』に輸出される日」(全73ページ)の一部を再編集したものです。

2018年1月、アメリカの家電見本市で、中国の新興自動車メーカー、フューチャー・モビリティーが世界初公開した電気自動車(EV)ブランド「BYTON(バイトン)」のコンセプト車。(写真=時事通信フォト)

「大国」から「強国」への躍進をもくろむ中国

中国では、すでにEVメーカーが60社以上も存在すると言われています。まさに、群雄割拠の状況です。

従来のガソリン車と比較すると、EVでは吸気系・排気系が不要となり、エンジン系統での技術力や実績の価値が低下していきます。モジュール化・電子化・水平分業化が進み、多くの完成車メーカーが乱立していること自体、自動車産業への参入障壁が崩れ、業界構造がすでに崩壊していることの証左でしょう。

自動車「大国」から自動車「強国」への躍進をもくろむ中国としては、自動車先進国への輸出という具体的な目標まで提示したなかで、日米欧の自動車メーカーを超えることが必要です。

中国政府は、エンジン車では日米欧の自動車先進国には勝てないと認めていることから、“エンジンのないクルマ”である「電気自動車(EV)化×自動運転化」を先行して進めることによって、次世代自動車産業の「強国」になろうとしているのです。

EVの購入者に100万円以上の補助金

中国政府の「自動運転化」への取り組みは、「自動車産業の中長期発展計画」(2017年4月)・「次世代人工知能の開放・革新プラットフォーム」(2017年11月)を通して、「AI×自動運転」の国策事業やバイドゥの自動運転プラットフォーム「アポロ」として具体化しています。

一方、「電気自動車(EV)化」について、中国政府は実に戦略的な取り組みをしています。推進策と“選択と集中”策をまじえながら、真に国際競争力を伴う中国自動車産業のEV化を成し遂げようとしているのです。

まず、EVの推進策です。北京・上海など大都市では、ガソリン車に対して発行するナンバープレートを抽選制として制約を設ける一方で、EVの購入者はナンバープレートの取得が容易になっています。また、EVの購入者に対して日本円で最大100万円余りもの補助金が支給されたり、購入後もEVは特定の環状道路での走行規制が免除されたりと、優遇措置が講じられています。

先に述べた「自動車産業の中長期発展計画」(2017年4月)が実行に移されるなかで、2017年9月に「乗用車企業平均燃費・新エネルギー車クレジット同時管理実施法」(通称“NEV法”)が公布されました。これは、簡単に言えば、中国の自動車メーカーは、2019年以降、販売台数の10%以上を新エネルギー車(NEV)にすることが義務付けられる法律です。中国政府のEVシフトを強力に加速する政策と言ってよいでしょう。