通路の両側に水しっくいが塗られていると、私は残念な気分になる。ペンキがにおうのも、私が来ると聞いてあわてて用意した証拠だ。古びていないクッキーもよくない。

昔、太平洋方面を指揮する海軍大将が韓国への駐留軍を視察し、私の大隊がいるあたりを通る予定だと言われたとき、私は大喜びした。そのときわれわれの兵舎はぼろぼろの古いもので、暖房器具の部品も手に入らないし、外壁のペンキもない状態。海軍大将の通り道に食堂があったが、ペンキが不足していたので前面にしかペンキを塗れなかった。ここを通った海軍大将はペンキが塗り立てなのに気づいたはずだ。ほかと違ってあまりに鮮やかで、ごまかしようがなかったからだ。今ふり返ると、海軍大将に探偵のまねごとなどさせず、われわれが抱えている問題を正直に話すべきだったと思う。

部下の生きている世界を把握せよ

部下というものは「小さなこと」ばかりの世界で生きている。リーダーは、公式でも非公式でも、なにがしかの方法でその世界を把握しなければならない。私の場合、突然立ち寄るという方法以外に、普通なら私のところまであがってこない子細を私に直接伝えてくれる非公式ルートを利用する。私が大まちがいをして「裸の部隊長」になってしまった場合も、このルートが教えてくれる。

軍隊時代は従軍牧師や准尉とその知り合い、監察官、下士官などが「立ち入り自由な」夜に私を訪れてはいろいろと教えてくれた。国家安全保障会議など政府関連組織で働いていたときは、組織外については信頼する友人から、組織内については職員から現場の情報を得るようにしていた。リーダーは、報告書や幹部の言葉だけでなく、現場の本当の姿を知らなければならないのだ。

例えば国務省時代、午後2時ごろに廊下を歩いていたら、退出しようとする若い女性に出会ったことがある。彼女は私が誰なのか気づいていないか、気づいていたとしてもそれをおくびにも出さなかった。ともかく、どうしてそれほど早くに退勤するのかをたずねてみた。

「フレックスタイムですよ。朝は7時から働いています」