イノベーションの舞台は電気自動車へ

スマートフォンに続くイノベーションとは何だろうか。期待されているのが、電気自動車(EV)だろう。環境保護のために、欧州各国や中国では、ハイブリッドカーも含めて化石燃料を使うエンジン搭載車の販売停止が計画され、EVの普及が重視されている。

このインパクトは大きい。まず、自動車は売上高が大きく、産業としてすそ野が広いために経済効果が大きい。ガソリン車の使用が禁じられれば、EVへの買い替え需要が生まれる。次に、ガソリンエンジン車からEVになると使われる部品、メカニズムが大きく変わる。生産プロセスにも大きな変化が起きる。内燃機関を搭載する自動車に使われる部品の数は、3万~5万点ともいわれる。数多くの部品をすり合わせ、振動や騒音をカットする技術が問われたからこそ、日独の自動車メーカーが競争力を発揮してきた。

それに対し、EVでは部品数が半分程度で済むと考えられている。すり合わせ技術が競争を左右する要因ではなくなるだろう。英ダイソンなどの参入にもあるように、自動車はユニットの組み立てによるエレクトロニクス・デバイスとしての性格を強めるだろう。EVの普及により、自然環境にも大きなインパクトがある。

アマゾン、グーグルが自動車開発に力を入れる背景

更に、EVにセンサーや人工知能(AI)を搭載し、ネットワーク空間に接続してデータの送受信を行う“コネクテッド・カー”の開発も目指されている。自動車に搭載される人工知能を含め、アマゾン、グーグルなどが次世代の自動車開発に力を入れている。

航続距離の延長やバッテリー充電施設などのインフラ整備への取り組みが進むとともに、EVの普及が想像以上に加速することもあるだろう。それほど、次世代の自動車の開発をめぐる企業の取り組みは強化されている。加えて、この変化は、自動車メーカーなどの製造業、IT企業などの非製造業というように、従来の産業のカテゴリーとは関係なく、世界全体で進んでいる。

その結果、より便利な自動車が生み出され、新しい需要が創出される可能性がある。その変化に乗り遅れると、企業としての存在意義が低下することもあるだろう。スマートフォン関連の需要を取り込んで業績を伸ばしてきた国内企業がこうした変化にどう対応するか、適応力が問われる時代を迎えようとしている。

真壁昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
(写真=時事通信フォト)
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