夜も眠れないような困難に直面したとき、「名トップ」と呼ばれる人たちは、なにを考え、どう動いてきたのか。「プレジデント」(2017年3月20日号)では、エステー、大和ハウス工業、ポルシェジャパンのトップに、場面別の対処法を聞いた。第1回は「実力以上の仕事を託された」について――。
QUESTION
実力以上の仕事を託された
エステー・鈴木 喬 会長の答え
オレが世界で一番仕事ができる! 自己暗示をかければ怖いものなし

株価バブル期7500円が360円へ。「オレなら立て直せる」

昔から誇大妄想なんですよ。小さいときから「オレが世界で一番だ」ってかたく信じ込んで、大ボラを吹いて自己暗示をかけ続けてきた。

写真=iStock.com/CreativaImages

だから「実力以上の仕事」なんていまだかつてないんです、精神的には。いつだって実力以下の仕事だと根拠なき確信を持っている(笑)。だけど現実とのギャップがあるわけで、やらせたら何もできない。それがわかっているから、あまり落ち込まないことにしている。

私がエステーの社長になったのは1998年。当時は金融恐慌で大手の金融機関がバタバタ倒れて、バブル崩壊後の不況で売り上げは横ばいだったけど、会社の利益はどんどん下がっていた。有価証券とか土地とか、会社の資産も大半は二束三文になっていて、バブル期には7500円をつけた株価は360円まで下がっていました。それでも「オレなら立て直せる」と常に思ってたよね。以前から「オレにやらせろ」と言ってたんだけど、嫌われ者だったから誰も相手にしてくれない(笑)。会社がどうにもならなくなって、「じゃあ、おまえがやれよ」と私にお鉢が回ってきたんです。

社長になって何をするか。腹は決まっていた。過去の全面否定です。就任演説で「聖域なき改革をやる。コンパクトで筋肉質な会社を目指す」と全社員を前に宣言した。不良資産を売り払ってバランスシートを健全化する。当時860種類あった商品アイテムを大幅に減らす。年間60も出していた新商品を絞り込む。最初に全部ぶちまけたんです。言ったもん勝ちだからね。先手必勝で、相手の度肝を抜かなきゃケンカには勝てない。それに最初に大言壮語しておけば、自分も引っ込みがつかなくなるよね。追い詰められたときに、人間はバカ力が出る。「これは自分の実力以上の仕事だ」なんて腰が引けていたら、こなせるものもこなせませんよ。

就任演説で多少は社内がぴりっとしましたが、そんなことで組織は簡単に変わらない。最初は抵抗の嵐でした。役員会で何を提案しても反対される。自分たちがやってきたことが全否定されるんだから当然です。結局、組織を変えるには、上を代えるのが一番手っ取り早いということで、役員を半分に減らしました。

商品アイテムの削減にしても、「不良在庫を捨てろ」といくら言っても誰も捨てない。捨てると「こんな売れない商品をつくったのは誰だ?」という責任問題になるから。最後は実力行使に出て、物流センターで商品ケースを床に叩きつけてやったら、ようやく在庫が減り始めた。

社長になってからはそんなことの連続でした。社長というのは決断業だと思います。決断して常に旗印を明確に示す。旗を振るだけでは誰もついてきてくれないから、ときには独裁的に振る舞ったり、バカなパフォーマンスもやる。決断するのに実力以上も実力以下もありませんよ。