自信過剰はあなたの気分をよくし、グリット(やり抜く力)を与えてくれ、他者に強い印象を残せる。しかし反面、傲慢(ごうまん)になりやすく、人びとから疎外され、自己を改善できず、また現実を見ないためにすべてを失うかもしれない。一方、自信が不足気味なほうが、道を究めるのに必要な意欲と手段を得られ、人びとから好感を持たれる。だが、気分は沈みがちで、他者から能力を低く見られるようなシグナルを送ってしまいがちだ。

なんともすっきりしない! どうすれば人生での成功や幸せにつながるのか、はっきりした答えが見つからない。自信のレベルが高ければ人びとを強く印象づけられるが、ひんしゅくを買う。自信のレベルが低ければ好感を持たれるが、敬意は得られない。矛盾しているように思える。自信(自分の「能力」に対する自己評価)をめぐる議論がまとまらない本当の理由は、自信を自尊心(「自己」そのものへの肯定感)のレンズを通して見ることにあり、そのことは数多くの研究で指摘されている。

最新心理学が注目する「セルフ・コンパッション」

では、自信に代わる概念があるだろうか? 教育心理学者でテキサス大学准教授のクリスティン・ネフは、それは「自分への思いやり(セルフ・コンパッション)」だという。他人を思いやるときと同じように、自分自身への思いやりを持てば、失敗したときに、本当は成功しているんだと妄想を追う必要もなければ、改善の見込みがないと落ち込む必要もない。過大な期待を膨らませたかと思えば、目標に届かないと自分を責めるような、ヨーヨーのような浮き沈みもない。私はなんて素晴らしいんだ、と自分にうそをつく必要はない。そのかわり、うまくいかないときには、自分を許すことに心を注げばいいのだ。

セルフ・コンパッションには、自尊心のプラス面がすべて含まれるが、マイナス面は含まれない。良い気分で仕事の成果を上げられ、高慢ちきになることもなければ、自己の改善を怠ることもない。自信と異なり、自分への思いやりは妄想につながることもない。

実際、『セルフ・コンパッションと自己に関連する不快な出来事に対する反応―自己を思いやることの意義』と題する研究では、自分への思いやりのレベルが高い人は、現状認識も正確であることが明らかになった。彼らは自分自身や世界を正確に把握していたが、だからといって失敗したときに、自己を責めることもない。一方、自尊心に重きを置く人びとは、ときどき自分を欺いたり、否定的だが有益なフィードバックを退けたりする。現実を受けいれるより、自己の価値を証明することに執着するのだ。これは傲慢さやナルシシズムにつながりかねない。

統計的に調べると、自尊心とナルシシズムのあいだには確かな相関関係があったのに対し、セルフ・コンパッションとナルシシズムの相関関係はほぼゼロだった。