ひきこもりは怠け者?

「不登校」や「ひきこもり」というと、特別な人たちを想像してしまうかもしれない。

しかし、小中学校の不登校は13万人、高校不登校は5万人、高校中退は年間5万人と言われている。

また不登校や中退を経験した子たちの受け皿になっている通信制高校の学生は18万人と言われている(通信制高校の学生たちは、スポーツなど他にやりたいことがあって通信制高校を選んでいるケースも多いが)。

高校中退の4年後は、20パーセントの若者が無業(学校にも行かず、バイトもしていない状態)という2009年の調査結果もある。また15歳~39歳以下のひきこもり54万人、うつ病の人は111万人と言われている。たくさんの子ども・若者が、実は困難な状況にあるのだ。

学校に行かないこと自体は、本当はたいした問題ではない。現に僕も学校にはあまり行かなかったし、それでもなんとか自立して生活をしている。

いじめがあったり、家族の問題で心が疲れてしまったり、発達障害があったり……自分の力ではどうにもならないことを経験したことで、不登校や中退を経験する子ども・若者たちはとても気持ちが落ち込んでいる。そういう人たちが、「何度でもやり直せる」社会でなければならないと僕は思っている。

けれども、どうにもならない不条理に苦しんできた子ども・若者への共感は、得られないことも多い。ある時、会社員の友人からこんなことを言われたことがあった。

「ひきこもりの人とか単なる怠け者だと思うし、勝手にすればいいと思うんだよね」
「俺らは頑張って学校行ったり、働いたりしているのに、ひきこもるのは甘えだと思う」

僕は言葉に詰まってしまった。どんな反論をすればよいのか、分からなかった。

20歳前後の失敗で人生が終わるわけがない

僕が経験者として、また、多くのひきこもりの若者たちと接してきて言えることは、彼らは決して「怠け者」ではないということだ。自分の人生を変えたい、けれども様々な出来事を経て自信を失ってしまった、自分ではどうにもできない状況まで追い込まれてしまった……だから勇気を出してキズキを訪れてくれた。

安田祐輔『暗闇でも走る』(講談社)

「もう自分の人生は終わりだ」と思いキズキにやってくる生徒も多いけれども、20歳前後の失敗で人生が終わるわけがない。でも、自分の人生が終わったと思い込んでいたら、人間はなかなか前に進めない。僕らは、その「思い込み」を解きほぐして、徐々に自信をつけていくことの手伝いをしているだけなのだ。

さらに大事なことは、「困難を抱える人が働く」ことは、本人だけでなく、社会全体にとってプラスだということだ。働く人が増えれば、税金や年金を払う人が増えることにつながる。少子高齢化社会において、とても求められていることだと思う。

キズキに通う若者たちも、いずれキズキを卒業して専門学校や大学に通い、その後経済的に自立を果たし、納税者としてこの社会を支える側になる。それは、この少子高齢化の日本社会に生きるすべての人にとって、重要な話だ。そういう観点からキズキを応援してくれる人がいたら、それもとても嬉しい。

安田 祐輔(やすだ・ゆうすけ)
「キズキ共育塾」代表
1983年横浜生まれ。不登校・中退・ひきこもり・発達障害などの若者のための個別指導の進学塾「キズキ共育塾」代表。幼少期からの発達障害によるいじめ、家庭崩壊、暴走族のパシリなどを経て、偏差値30からICU(国際基督教大学)教養学部国際関係学科入学。卒業後、大手商社を経て、2011年に小学生の内容から難関大学受験レベルまで学習できるキズキ共育塾を開塾。現在、全国に5校(代々木・池袋・秋葉原・武蔵小杉・大阪)開塾。
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