なぜ一流ブランドのトップは新宿伊勢丹に来るのか?

【酒井】たしかに人とのご縁というのは、こちらが提供できるものがあり、お互いに得るものがあるからこそ成立する。一方的に情報を得るだけの関係では成り立たないですね。

【大西】情報収集という意味では、経営者になってからは、ヨーロッパのメゾンのトップに会うことも心がけていました。ファッション業界では、ヨーロッパの優れたブランドを「欧州メゾン」と呼びます。

ブランドによっても違いますが、日本のマーケットは彼らにとって20~25%くらいのシェアで、それなりに大きいんです。そして世界的なブランドが自社の百貨店に入っているかどうかは、こちらにとっても大きい。彼らとの関係は非常に重要なんです。そこでメゾンのトップと普段から綿密にコミュニケーションをとっておくと、独自性のあることができるようになる。

これは前任の武藤から学んだことでもあるのですが、武藤は社長になってからも「武藤バイヤー」と呼ばれるくらい彼らと親密な関係を築いていました。私は武藤のカバン持ちでヨーロッパに行ったときに、メゾンのトップに直接会って関係を築く重要性を肌感覚で痛感しました。その頃からの努力もあって、メゾンのトップが来日すると新宿本店には来ていただけるようになりました。

ですから役員にも「海外へ行ったら、買い付けに立ち会うとかコレクションを見るだけではなく、たとえアポが取れていないとしても、メゾンのトップと会えるよう、とにかく努力をするように」と言っていました。ビジネスの最後の最後は本当に人間関係で決まりますから。

【酒井】たとえ会えないとしても、会う努力をする。それには、自分は三越伊勢丹の看板を背負って行っているんだという自覚が必要ですね。

【大西】そうなんです。そういう気概が大切なんですね。パーティーなんかは重なったりすることも多いですから、それを理由にして、行かなければ行かないで済ませることもできます。しかし、それでは自分もなかなか成長しないし人脈も作れません。

あるとき、プラダの本社の社長が日本に来て、パーティーが催されました。これは絶対に行かなければと思いまして、前後に先約があったのですが「せめて30分だけでも」と、参加したのです。

ほかの百貨店は、役員クラスの人が複数参加していたのですが、そのときは三越伊勢丹だけはたまたま私しかいませんでした。後の約束があるため私は会場を出なければいけないけれど、ここに三越伊勢丹の人間を置いておかないわけにはいかないと思いまして、何人かに連絡を入れました。しかし来られる者がいなかった。

仕方なくLINEで若手社員に声を掛けたら、30代前半の女性社員が「私、行きます」という返事をくれたんです。そして彼女は、社の代表としてそのパーティーに参加してくれた。彼女のような積極性や視野の持ち方というのは、人間関係をつくっていくうえで非常に重要だと思います。年齢は関係なく、そういう意識が大切ですね。