先日、私の事務所の職員が日本航空(JAL)を利用して青森に出張した。仕事や趣味の旅行で頻繁に飛行機に乗る彼なら航空会社のサービスに詳しいだろうと思い、業績好調の全日本空輸(ANA)と、業績が低迷するJALとの違いを尋ねてみた。すると、「JALのほうがサービスの印象はいいですよ」と、意外な答えが返ってきた。どうもサービスの質と業績は必ずしも比例しないようだ。

そのJALの業績だが、当初30億円の黒字を予想していた前期、2007年3月期の最終利益を、春先に急遽162億円の赤字へ下方修正して大きな話題になった。一気に200億円近くも損失が出た計算で、一部では経営危機説すら流れた。何か“想定外”の緊急事態がJALの内部で発生したのだろうか。

ちまたでは、原油高にともなう燃料費の高騰、相次いで生じた運航トラブルや経営陣の内紛など様々な要因があげられてきた。しかし、ここで1つ大きな疑問が浮上してくる。というのも、実はJALの業績は決して悪くはなかったのだ。前々期に416億円の赤字だった経常収益は、前期205億円の黒字へ転換している。そして、大幅な最終赤字へと引きずり込んだ元凶を探し求めると、「繰延税金資産」に行き着く。

繰延税金資産とは、将来支払うべき税金を、何らかの事情で早めに支払った、つまり「税金の前払い」を行った分のこと。これは会計上の解釈と税務上の解釈が異なるために生じるもので、たとえば固定資産の減価償却費が税法の規定よりも多くなることがある。すると、一部が費用として認められなくなる。

そうやって当期の会計上の費用の一部が税金の計算上では今すぐには認めてもらえず、前倒しで今年支払った税額を、「繰延税金資産」という。そして、その繰延税金資産に相当する税金の前払いは、将来に利益が出た際、これと相殺する形で税額を減らす効果があるため、資産価値があるとして当期のバランスシートに、資産として計上される。

別掲の図は前々期のJALのバランスシートで、同社の財産の状態を示している。バランスシートの左側には「その他の資産」として、現金、預金、売上債権、在庫、固定資産などの財産が2兆996億円ほど計上されていた。これらは基本的に実体がある資産なので、換金価値があると思ってよい。しかし、問題なのが下側にある繰延税金資産で、同社は実に616億円も積まれていた。

確かに、繰延税金資産は“将来の減税予備軍”として心強い味方でもある。しかし、その真価を発揮するためには、ハードルを一つクリアしなければならない。今後数年間で、616億円の税額に相当する利益を出す必要があるのだ。会社に課税される法人税等の税率は利益に対して約40%。つまり、JALでは「616億円÷40%=1540億円」の利益をあげないと、減税効果も望めないのだ。

もし、それだけの利益が見込めない状態ならば、架空の資産となってしまう。前期に経常黒字になったとはいえ、厳しい経営環境を考えると、JALがこれから短期間で1500億円もの利益を稼げるとは考えづらい。担当する監査法人のほうでも見切りをつけて、繰延税金資産の取り崩しをするよう同社に要求したのであろう。前期末はわずか103億円で、500億円以上も減額されている。

バランスシートの資産が減ると、損益計算書ではその分を費用として計上する。その結果、冒頭で紹介したように大幅な最終赤字へと転落したのだ。このように、将来の利益を見込めない会社が繰延税金資産を計上していると、ある日突然に「まったく根拠のない架空資産」として判定され、大幅減益に転落する可能性があるので、注意しておきたい。