人を切らずに利益を上げる方法

【酒井】なるほど。販売員の方への歩合制導入というのは、三越伊勢丹という大企業の川上の部分でSPAに近いモノづくりを手掛けつつ、最終的にもっとも重要な販売という川下の部分も手厚くするという施策の一部だったわけですね。このインセンティブ制の導入は、かなり成果が出たようですね。

【大西】もともと販売力のある優秀なスタッフがインセンティブ制に手を挙げてくれたことも大きく影響していると思いますが、導入後、すぐに売上が10~15%伸びました。また商品の消化率も上がりました。

【酒井】販売職の地位向上は、目先の売上アップという目的もさることながら、有能な人材を引きつけていくうえでも欠かせない領域ですよね。

【大西】おっしゃる通りですね。しかし百貨店は生産性が低く、人件費率が非常に高いので、「利益を確保するためには人件費をカットすればいい」という安易な発想になりやすい。

たしかにコストカットすれば数字上は一時的に回復するでしょう。しかし従業員を減らすことで失うものは計り知れません。ですから、私は店頭に立つスタッフに辞めてもらって人件費を落としていくのではなく、能力のあるスタッフの生産性を2倍、3倍にすることで全体における人件費率を下げることをしたかったのです。

そもそも私は、従業員は「人材」ではなく「人財」だと思っています。店頭で商品を売る販売スタッフも百貨店にとって大切です。彼らは百貨店の存在意義の一つといってもいい。

人件費というコストで考えると、その人がどれくらいの売上を立てているかといった目に見える数字を追いかけてしまいがちですが、販売員のなかには間接的に、しかし大きく売上に貢献している人もいるはずです。

たとえばお客様に対してすばらしい接客をして、お客様が感動する。たとえそのときは何も買われずに帰ったとしても、その感動をもとにその後何度もお店に足を運んでくれる場合もあるでしょう。

適切な接客によってお客様のロイヤリティ度を上げている場合もあるでしょうし、特定の販売員のセンスや人柄を気に入ってお店にお越しいただいているお客様もいます。このような部分はなかなか数字には表れにくいですから、小売業で人材を考える場合には目に見える数字だけを追わないことも大事なのではないかと思っています。