既存の流通業とアマゾンの最大の違いとは

これに対し、アマゾンでは、1回の購買単価が100円であっても、10回利用してくれる顧客はライフタイムバリューが高いと考えます。

また、「客単価×客数」の収益モデルでは、1週間に3回買い物をしてくれた顧客は延べで「3人」とカウントされます。Aという顧客が3回来店しても、AとBとCの顧客がそれぞれ一回ずつ来店しても、来店した客数は「3人」です。

そして、この来店客数を増やすにはどうすればいいかが課題となります。

一方、アマゾンの「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」の収益モデルでは、Aという顧客が1週間に1回買い物をしてくれても、3回買い物をしてくれても、Aという顧客は「1人」です。

そして、その「1人」をライフタイムバリューの高いアクティブユーザーへと育てるためにはどうすればいいかを考え、稼いだ利益を商品の値下げやいまあるサービスの質の向上に投資し、顧客の体験価値を高めていく。

たとえば、ビデオ配信サービスもそうです。アマゾンがビデオ配信サービスのため、2017年にオリジナルの映像コンテンツ制作に投じた予算は45億ドルと、アメリカのビデオストリーミング大手、ネットフリックスの60億ドルに迫るといいます(『日経ビジネス』2017年10月2日号より)。

その体験価値を高めるため、アマゾンは今後も、商材をどんどん増やしながら、プライム会員に提供するサービスを量、質ともに向上させていくでしょう。

もし、Aという顧客の立場で考えたとき、「客単価×客数」を高めようとする収益モデルと、「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」を重視する収益モデルのどちらに魅力を感じるかといえば、後者になるでしょう。

これが既存の流通業とアマゾンの最大の違いといえるでしょう。

鈴木康弘(すずき・やすひろ)
デジタルシフトウェーブ社長
1987年富士通入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役就任。2006年セブン&アイHLDGSグループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS執行役員CIO就任。グループオムにチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員も兼任。
(写真=AFP/時事通信フォト)
【関連記事】
米国トイザらス倒産とアマゾンの深い関係
楽天が挑むアマゾンエフェクトという苦境
アマゾンの戦略は「孫子の兵法」だった
日本発無人レジは"Amazon GO"に勝てるか
アマゾンジャパン社長の"日本市場攻略法"