検察は世論の盛り上がりを狙う

それにしても毎日新聞は、なぜ言い訳記事を添えてまで「佐川氏 立件見送りへ」という記事を書いたのだろうか。

大阪地検を担当する記者が「他社の書く前に書いてやろう」という小ざかしい競争意識を働かせたのか。いや違う。

問題の毎日の特ダネ記事は「国有地が不当に約8億円値引きされたとし、佐川氏以外の同省職員らが告発された背任容疑についても、特捜部は違法性があったとまではいえないと判断しているとみられ、立件は難しい状況だという」とも書いている。

この記事のようになれば、検察の惨敗である。検察にとっては「佐川氏立件に向け」もっと世論が盛り上がる必要がある。世論の勢いが増せば、検察は動きやすくなる。検察側は世論に火がつくことを狙って毎日新聞に書かせたのだろう。まして大阪地検は9年前に無実の厚生労働省の女性局長を逮捕するという証拠改竄事件を起こし、国民の信頼を失っているから、なおさらその思いは強いはずだ。そうした検察の思惑に毎日新聞が乗った。

繰り返すが、このままでは安倍政権がその「1強」をますます誇示し、民主主義自体がどこかへ消えてしまう。ここは新聞社の社説の出番だ。新聞社説が「佐川氏を立件すべきだ」と主張し、世論を奮い立たせるべきだ。

一連の特ダネのニュースソースは検察

朝日新聞が今年3月2日付朝刊(東京本社発行)の1面トップで「森友文書 書き換えの疑い」と財務省の決裁文書改竄を報じて以降、NHKが財務省理財局の口裏合わせ要求をスクープするなど、報道各社の特ダネが続いた。

一連の特ダネ報道のニュースソースは、おそらく大阪地検特捜部だろう。捜査に「待った」をかけようとする安倍政権側の動きに反発し、マスコミに情報を伝えたのだ。いまや「検察対安倍政権」の戦いになっている。

今回の毎日新聞の「佐川氏 立件見送りへ」の特ダネもこうした状況の下で出てきた。そう考えると、すべてつじつまが合ってくるから不思議である。

安倍政権が真相解明に後ろ向きなのは当然

最近の社説を読んでみると、やはり「まだまだ」である。安倍政権に批判的な朝日社説をはじめとして「佐川氏を刑事立件すべきだ」などと検察の捜査に期待、あるいは擁護するような主張はまったく見られない。だから「社説は新聞記事の中で一番つまらない」と批判されるのだ。

たとえば4月12日付の朝日社説を挙げる。

冒頭で「森友学園をめぐる財務省の決裁文書の改ざん、『首相案件』という文書が見つかった加計学園の獣医学部新設、そして防衛省・自衛隊の日報隠し――」と指摘し、「行政の信頼を根底から揺るがす事実が次々と明るみに出る中、きのう衆院予算委員会で集中審議が行われた」と書く。

さらに森友学園問題については「地中のごみ撤去をめぐり、財務省が学園側に口裏合わせを求めた問題が取り上げられたが、誰がどんな判断で指示したのか、核心に触れる説明はなかった」と指摘し、「真相解明に後ろ向きな政権の姿勢が、事態の混迷を招いていると言わざるを得ない」と批判する。