このように、私たちは知的行動について、それが実際にはコミュニティによるものであっても、個人のものと考える傾向にある。成功している企業についても、同じ混乱が見られる。インターネット・ベンチャーの起業家にもその他大勢と同じ誤解を抱いている者が多い。重要なのはアイデアである、と。

ベンチャー企業を成功させるカギは、市場を生み出し、何百万ドルもの利益を生み出すような優れたアイデアである、というのは広く受け入れられている考えだ。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグやアップルのスティーブ・ジョブズが成功したのは、そのおかげと見られている。知能は個人のものと思われているため、アイデアを生み出した手柄はすべてたった一人の個人のものとされる。

重要なのはアイデアではない

しかし新しいベンチャー企業を支援するベンチャー・キャピタリストのなかには、現実は違うと言う者もいる。その一人、エイビン・ラブヘルは「ベンチャー・キャピタリストはアイデアではなく、チームに出資する」と指摘する。

写真=iStock.com/YakobchukOlena

アーリーステージ(創業初期)のハイテクベンチャーを支援する主要なインキュベーターの一つである、Yコンビネーターの例を見てみよう。

Yコンビネーターの戦略は、ベンチャー企業が当初のアイデアを頼りに成功をつかむことはめったにない、という発想に基づいている。アイデアは変化する。だから一番重要なのは、アイデアではない。アイデアの質よりはるかに重要なのは、チームの質である。優れたチームは、市場の実態を調べて優れたアイデアを見つけ、その実現に必要な作業を遂行することによって、ベンチャー企業を成功に導く。優れたチームは、個人の能力を活かすようなかたちで役割を分担する。

Yコンビネーターがたった一人の創業者しかいないベンチャーへの投資を避けるのは、役割を分担するチームが存在しないためだけではない。その理由は、あまり知られていないが、チームワークの根幹にかかわるものだ。一人ぼっちの創業者には、仲間をがっかりさせまいとする「チームスピリット」を発揮する機会がない。チームは物事がうまくいっていないときほど頑張ろうとする。それはお互いが励まし合うからだ。チームのために頑張るのである。

知識のコミュニティに生きているという事実を受け入れると、知能を定義しようとする従来の試みが見当違いなものであったことがはっきりする。知能というのは、個人の性質ではない。チームの性質である。難しい数学問題を解ける人はもちろんチームに貢献できるが、グループ内の人間関係を円滑にできる人、あるいは重要な出来事を詳細に記憶できる人も同じように貢献できる。個人を部屋に座らせてテストをしても、知能を測ることはできない。その個人が所属する集団の成果物を評価することでしか、知能は測れない。